研究実績の概要 |
細胞外マトリックス(ECM)型プロテオグリカンのバーシカン(Vcan)は各種病態の組織破壊後の修復の際に一過性に高発現し、間質細胞の挙動を制御してECMの再構築に重要な役割を果たす。VcanはADAMTS群の蛋白質分解酵素群によって特異的に分解されその分解産物バーシカインは新たな生理機能を有することが明らかとなりつつある。本研究の目的は、ADAMTS群抵抗性Vcanを発現する遺伝子ノックインマウス(V1R系)を作出し、同マウスに各種病態を作出して、その解析を通じて病態局所の間質Vcanとバーシカインの生体内機能を明らかにすることである。 皮膚創傷治癒実験:V1Rのホモ接合体(R/R)と野生型と比較したところ、R/Rでは創傷作出後Day 2, Day5で治癒の促進が認められたが、7日目では治癒の程度に有意差はなかった。組織学的にDay2, Day 5ではR/Rにおいて表皮の遊走の亢進、創底部と周囲の肉芽形成の促進が観察された。免疫染色では、Vcanの蓄積、Smooth Muscle Actin陽性筋線維芽細胞の増加が確認された。このことは、創傷治癒早期に細胞外マトリックスに局在するVcanがADAMTS群の蛋白質分解酵素によって一定の分解を受けること、創傷治癒後期では主として他の酵素がVcanの代謝を司ることを示している。細胞培養系にて検討したところ、R/Rの皮膚線維芽細胞ではSmad2/3が核に局在している細胞が増加していた。このことは蓄積したVcanがTGFbetaシグナルを亢進させることを示唆している。本研究は論文投稿の準備中である。 DSS腸炎実験:デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いて腸炎を作出して炎症の程度を比較したところ、R/Rでは炎症の軽減と江印象細胞浸潤の低下が観察された。現在、R/Rにおける炎症軽減のメカニズムを検討中である。
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