研究課題/領域番号 |
18H02648
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
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研究分担者 |
近藤 純平 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (80624593)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞極性 / 転移 / 微小乳頭癌 |
研究実績の概要 |
本研究ではがん細胞集団に特徴的な分化の性質(極性および極性転換)の研究を発展させることを目的とし、以下の3つのプロジェクトについて研究を進めた。1)細胞集団を転移源とする腹腔・胸腔内転移の成立における極性転換の役割を明らかにする。これまでにモデル系確立のために卵巣癌CTOS4例のラインを確立し、極性状態の解析を行った。CTOSを腹腔内投与することで、腹膜転移モデルの確立を試みたが、未だ確立には至っていない。2)予後不良な病理学的特徴であるMicropapillary carcinoma (MPC)を極性転換の観点からアプローチし、分子メカニズムを解明する。MPCは肺・乳腺・胃・大腸など様々な臓器由来の癌で見られ、転移の頻度が高く予後不良な病理組織型である。極性の観点からするとMPCは「極性転換不全」であるといえる。これまでに細胞内経路Yの阻害剤Xが極性転換を抑制すること、さらに極性転換の起点となる時間枠(転換点)を明らかにしていたので、その時間枠での細胞内経路の変化を解析したところ、MPCでは経路Yが恒常的に活性化しており、転換点で起こる一過性の活性低下が観察されないことを明らかにした。3)細胞外基質との接触によって誘発される極性転換の分子メカニズムの解明を試みる。CTOSがECMへの接触を感知して、極性転換に関与する細胞内シグナルを明らかにし、本経路が上記MPCで制御不能になっていることを明らかにした。さらに、新たに別の経路の阻害剤薬剤Zが極性転換を阻害することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣癌CTOSを用いた腹膜播種モデルの確立のために、卵巣癌CTOSのラインの安定的な樹立に成功したが、未だ腹膜播種モデルに発展できていない。MPCが極性転換不全であり、分子Xを中心とする細胞内シグナルが重要であることの解明は、MPCの病態を理解するうえで画期的なので、順調といえる。また、これまでの研究成果の中で大きな進展は、極性転換を動的にイメージングすることができるようになったことだが、極性転換が起こる時間枠(転換点)を明らかにし、その転換点での分子Xの変化がMPCで特異的であることを明らかにしたことにつながった。以上より、総合的に判断して、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
1) 腹腔・胸腔内転移と極性転換 腹膜転移が臨床上大きな問題である卵巣癌CTOSをモデルとして、極性転換能が腹膜播種の成立に果たす役割を検証する。これまでにモデル系確立のために卵巣癌CTOSのラインの樹立を試み、4例の樹立に成功した。これらラインのin vitroでの極性状態の解析と、腹腔内投与を行うことで、腹膜播種モデルを確立する試みを継続する。また、腹膜中皮細胞との共培養系を確立する。 2)Micropapillary carcinoma (MPC)と極性転換 分子Xの発現や機能の低下が極性転換に必須であることを明らかにした。下記上流分子のMPCにおける役割を検討する。 3)極性転換を誘発する分子メカニズムの解明 これまでにGPIアンカータンパクをGFPで標識したapical markerを用いて、極性転換の経時的変化を明らかにし、極性転換が劇的に開始する「転換点」を時空間的に明らかにした。この転換点に解析の焦点をあて、転換点における時空間的な解析を行う。ECMの存在を感知して、細胞内に伝達し、分子Xの活性を一過性に抑制する上流分子の同定を試みる。
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