研究課題/領域番号 |
18H02649
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 康之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (50553434)
|
研究分担者 |
藤井 渉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40708161)
山岸 潤也 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 准教授 (80535328)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 内臓型リーシュマニア症 / 免疫病態 / 貧血 |
研究実績の概要 |
内臓型リーシュマニア症(VL)はリーシュマニア原虫の感染により引き起こされる人獣共通感染症である。本症の化学療法はさまざまな問題点を抱えており、宿主免疫を適切に調節することで効果を発揮する免疫療法は新たなVLの治療法として期待される。一方、発熱、貧血、肝脾腫といったVLの症状が免疫応答に起因することから、不適切な免疫刺激による逆効果も予想される。つまり、VLに対する効果的な免疫療法の確立にはその感染・発症機序を詳細にとらえる必要がある。本研究では、発生工学を駆使したマウスモデルと、ヒト患者やイヌ由来材料を用いた解析を有機的に組み合わせることで、VLにおける病態免疫を明らかにし、症状の改善を促す免疫療法の開発を目指している。 2018年度は貧血に注目して、感染マウス脾臓中にみられる赤血球貪食現象のメカニズムに関する研究を行った。感染マウスで見られる赤血球貪食細胞は、原虫に重度に感染した多核巨細胞であるため、in vitroでマクロファージ(Mφ)を感染させ赤血球貪食を誘導する実験モデルを構築した。その結果、細胞膜上に発現して血球貪食を抑制的に制御する因子であるSIRP-αの発現が感染によって低下すること、またその発現制御はmRNAに依らず酵素による切断に依存することが示唆された。感染マウスの脾臓におけるSIRP-αの発現解析を行ったところ、やはり赤血球貪食細胞において発現レベルが低下していることが明らかとなった。これら赤血球貪食が細胞内の原虫に与える影響を解析したところ、赤血球を貪食したMφにおける原虫の生存率は非貪食Mφと比較して有意に高いことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VLにおける貧血発症のメカニズムにはこれまで不明な点が多かった。我々が開発したマウスVLモデルは、世界で初めてLeishmania donovani感染による貧血をマウスで再現したものである。そのモデルを用いて貧血の発症メカニズムを詳細に解析したところ、血球貪食を抑制的に制御する因子であるSIRP-αの発現が感染によって低下することを初めて明らかにできた。また、赤血球貪食が原虫感染と重なるという点に着目して、赤血球貪食が貧血に与える影響とは別に原虫の生存に与える影響も解析したところ、赤血球を貪食したMφでは原虫の生存が有利になることが明らかとなった。この現象は、原虫感染による淑因子の発現制御が、原虫の生存と症状の発症に影響するという重要な発見である。原虫感染によるSIRP-α切断メカニズムが明らかになれば、原虫のコントロールと症状のコントロールの両方に貢献できると考えられる。 上述した研究成果のほかにも、高ガンマグロブリン血症の原因となる抗原虫IgG抗体の産生におけるBAFFの影響に関する研究成果や、抗体の機能に関する研究成果が得られ、これらの成果は学会発表として成果報告をしたとともに、現在論文を投稿中である。よって研究進捗は順調だと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は貧血、脾腫、肝腫について焦点を当てて、VLの病態形成機序解析を行うが、研究の中心はマウスを用いたものであり、その解析にあたっては常に白血球減少、血小板減少についても並行して行う。ただし、以下の各研究項目では、焦点が分かりやすいよう解析の中心となるものについてのみ記載する。 ①【全般】原虫と宿主のインターラクトーム解析:原虫の感染動態は感染する臓器ごとにより異なり、局所における免疫応答も大きく異なることが考えられる。局所免疫が各臓器での症状と密接に関連することから、各臓器の免疫応答とその臓器内での原虫の抗免疫応答における関係性を理解することが重要である。本年度は脾臓、肝臓などにおける宿主と原虫のトランスクリプトーム解析を同時に行うことにより、局所における宿主-原虫のインターラクションの理解を目指す。 ②【貧血】赤血球貪食亢進に関わるSIRP-αの切断メカニズム解明:昨年度中に、感染マウス脾臓中にみられる赤血球貪食に関わる候補因子としてSIRP-αを見つけ、感染によりSIRP-αの切断が誘導されることを明らかにした。本年度は、SIRP-αの切断部位や切断に関わる酵素群の同定を行い、切断抵抗型のSIRP-α変異体を発現するマウスの作出を行い、SIRP-αの切断阻害が研究貪食や貧血に与える影響について検討を行う。 ③【脾腫】感染によるBAFF産生亢進の機序解明:感染マウスにおける主なBAFF産生組織は脾臓であったため、脾臓におけるBAFF産生細胞の同定を行う。BAFF産生細胞として、Mφや樹状細胞、T細胞が知られており、BAFF発現細胞におけるCD11b、CD11cやCD3の発現を解析する。次に、BAFF産生を誘導する原虫因子の同定を行う。
|