レプトスピラ症は熱帯・亜熱帯地域に多く見られる人獣共通感染症の一種です。感染症法で届出対象とされていますが、その臨床症状には発熱や筋肉痛など軽症型から黄疸・出血症状・多臓器不全などを伴う重症型まで多様性があるため、確定診断が難しい感染症として知られています。初診が遅れ重症化すると死に至ることもあります。レプトスピラ症の治療としては抗菌薬による早期治療が効果的ですが、抗菌薬の投与による副作用などが問題となっており、新たな治療法の開発が求められています。 レプトスピラ症の原因細菌であるレプトスピラは、皮膚・粘膜から血流に入り、肺や腎臓などの標的臓器へと拡がります。一方、皮膚や臓器にはもともと細胞間接着装置(接着装置)があり、隣り合う細胞どうしを密着させることで、臓器の構造と感染阻止を含む生理機能を維持しています。接着装置は、カドヘリンを中心分子とする接着帯と閉鎖帯から構成されています。病原細菌は様々な戦術を駆使して、接着装置の機能を撹乱し、感染を成立させます。レプトスピラの場合は、細胞間隙を通過しながら標的臓器にたどり着くことが動物感染モデルを用いた研究で示唆されていましたが、その仕組みは未解明のままでした。 本研究では、近位尿細管上皮細胞を安定した経上皮抵抗値を示す細胞として分化さ、レプトスピラは接着装置を破壊し、細胞間隙を通過しながら上皮細胞の基底側から頂端側へと移行することを明らかにしました。また、レプトスピラによる細胞間接着装置の破壊は、その接着に重要な細胞外領域をもつカドヘリンを細胞内に取り込むことで引き起こされることがわかりました。従って、カドヘリンの細胞内取り込みを阻害することによってレプトスピラの全身への広がりを食い止められることが可能であることが示唆されました。本研究で得られた新規知見は、新たな制御法の開発につながることが期待できます。
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