感染症による死者数が増大しており,2050年には,感染症に対して抗菌薬以外の対策を講じなければ薬剤耐性菌による死者数が1000万人に上ると予測されている.代表者は,このような問題を打開すべく,免疫賦活作用を有するビザンチンを開発し,感染症に対する効果、およびその作用メカニズムについて探索した. 令和二年度は,水溶性ビザンチンのミュータンス菌バイオフィルム形成抑制効果に関する論文を3編(国際誌:1編、国内誌:2編)報告した。ミュータンス菌のバイオフィルム形成阻害効果は、口腔内の衛生環境維持に大きく貢献できると考えられ、高齢者で多く認められる誤嚥性肺炎の予防に効果があるのではないかと期待される。 また、前年度までに水溶性ビザンチンがTLR4/MD-2受容体に作用していることが推察されたため、水溶性ビザンチンの敗血症治療薬としての可能性について解析した。その結果、大腸菌由来LPS、ジンジバリス菌由来LPS、緑膿菌由来LPSをマウスマクロファージ細胞(RAW264.7細胞)に添加した時のサイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6、MCP1、IL-10)遊離を水溶性ビザンチンが抑制することが判明した。また、蛍光標識LPSの細胞への結合を抑制することから、水溶性ビザンチンは、TLR4/MD-2受容体で細菌由来LPSと競合していることが推察された。さらに、水溶性ビザンチンは、マウスに投与してもTNFαやIL-1βなどの炎症性サイトカインの遊離をほとんど引き起こすことなく、大腸菌LPSによるマウスの致死を抑制することが判明した。これらの知見は、水溶性ビザンチンの敗血症治療への一助になると考える。
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