本研究では、脊椎動物における非自己RNAセンサーであるRIG-I-like受容体(RLR)によるウイルス感染検知と、細胞ストレス応答における自己RNA機能制御が密接に関連していることに注目し、両者に共通して機能する宿主RNA結合タンパク質(RBP)の同定と機能解析を通じて、自己と非自己のRNA認識を介した細胞機能制御および生体防御の分子制御基盤を解明することを目指している。 令和2年度は、前年度までの解析で同定していた宿主mRNAの翻訳制御に関与することが知られる因子について、遺伝子破壊マウス(KOマウス)におけるA型インフルエンザウイルス(IAV)感染に対する感受性についての解析を実施した。その結果、本遺伝子の欠失がウイルス感受性を増大させ、また同時にRLRによって誘導される抗ウイルスサイトカインであるI型インターフェロン(IFN)の発現を減弱させることを明らかにした。さらに、本年度から新たにBSL3実験施設を整備することで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に対するIFN応答についても検討を開始した。その結果、SARS-CoV-2の感染に関与するヒトアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)を発現させた培養細胞を用い、当該因子を強制発現させた場合、RLRと協調してSARS-CoV-2の増殖を抑制することが示唆されたことから、当該分子がSARS-CoV-2感染に対する宿主自然免疫応答にも関与することが明らかになった。また、その分子機構として、同分子がRLRのうち特にRIG-Iと協調してウイルスRNA検知に関与する可能性を示す結果を得ており、RLRによるウイルス由来非自己RNA認識における補助因子としての機能を持つ可能性が示唆された。
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