本研究では、単一の抗原特異性を持つクローンを用いて自己免疫疾患を治せるか」というテーマに取り組んだ。関節リウマチモデルであるskgマウスの標的抗原の一つがリボゾームタンパクRPL23aであること、この抗原に特異的なTCR(R7-39)をだすヘルパーT細胞の単一クローンで関節炎や皮膚炎を誘導できることが報告されている。そこで本研究では、R7-39を発現するTregを作製し、そのTregがskgマウスの病態を「予防できるか」さらに「治療できるか」をテストする。元の計画では、1)人工的なTregとしてIL2KO/CTLA4Tg/skg/R7-39Tgマウスを作製し、そのCD4T細胞を用いる、2)再生医療への応用を見据えてIL2KO/CTLA4Tg/skg/R7-39TgマウスからiPS細胞を作製し、そのiPS細胞から再生したCD4T細胞の治療効果もテストする、としていた。しかし、IL2KO/CTLA4Tg/skg/R7-39Tgマウス作製の遅れから、代わりにR7-39を発現する人工的なTregとして、R7-39をnTregに強制発現させる系を用いた。R7-39の導入にはレトロウイルスの系を用いた。内因性のTCRとの競合が問題になるので、ゲノム編集法により内因性TCRを欠失させた。R7-39-TCRが安定して発現していたため、これを用いて実験を行った。 2020年度にはR7-39発現ヘルパーT細胞の単一クローンで誘導された関節炎と皮膚炎のモデルに対し、R7-39-TCR発現Tregを投与したところ、皮膚炎については治療効果が認められた。すなわち、この人工Tregを用いて、skg皮膚炎の症状を軽減させることに成功した。Tregを用いた予防法ではなく「治療法」の、世界初のモデルと言うことができる。全体として計画通りに進まなかった点はあるが、一定の成果は得られたと考えている。
|