研究課題
近年の研究から、腸管免疫が生体の様々な疾患に関わること、その制御に腸内細菌が重要な役割を担っていることが判明し、「腸内細菌を介した腸管免疫の制御」が健康科学における新潮流となっている。本研究グループでは、従来研究されてきた腸管管腔だけではなく、パイエル板などの腸管リンパ組織の内部にもアルカリゲネスに代表されるユニークな細菌群が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。その後の研究から、アルカリゲネスはパイエル板組織内において樹状細胞の内部に存在し、宿主細胞との共生を成り立たせていることを見いだしている。本年度はこれらの知見を基盤に、樹状細胞とアルカリゲネスとの共生メカニズム、さらにそれに連動する免疫制御との関連について培養細胞を用いた解析を行った。アルカリゲネスと樹状細胞の共培養系における樹状細胞の機能変化について、アルカリゲネスと同じグラム陰性菌である大腸菌を比較対象として解析した。その結果、アルカリゲネスの死菌体は樹状細胞からIL-6などの炎症性サイトカインの産生を誘導したが、その活性は大腸菌よりも弱いものであった。この違いを明らかにするために、菌体成分であるリポ多糖(LPS)に着目して解析したところ、菌体と同様、アルカリゲネス由来のLPSは樹状細胞からの炎症性サイトカイン産生を誘導したが、その活性は大腸菌LPSに比べて弱かった。すなわち、アルカリゲネスはLPSの活性が弱いためにパイエル板などのリンパ組織内部において樹状細胞を介した炎症を惹起することなく共生できる環境を構築していると考えられる。これらの知見をもとに現在、LPSの活性中心であるリピドAの構造解析および全合成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画の通り、アルカリゲネスと樹状細胞の共培養系における樹状細胞の機能変化の解析から、炎症性サイトカインの産生を誘導におけるアルカリゲネスのユニーク性を明らかにした。さらに、このユニーク性が菌体成分であるLPSの活性によることを明らかにした。このように、本年度の成果は、アルカリゲネスはLPSの活性が弱いことによって、リンパ組織内部で炎症を惹起することなく共生できることを示しており、樹状細胞とアルカリゲネスとの共生メカニズムの一端を解明できたと考えており、研究は予定通り進捗していると考えている。
今年度の検討から、共生細菌であるアルカリゲネスと病原細菌である大腸菌ではLPSの活性に違いがあることが明らかになったことから、次年度以降はLPSの活性中心であるリピドAに着目した研究を進める。具体的には、リピドAの構造解析を行い、アルカリゲネスのリピドAの合成方法を確立する。さらに、合成したリピドAを用いて、樹状細胞の活性化など宿主免疫系への作用を検討し、リピドAの構造と活性と関連を明らかにする。これらの解析によって、アルカリゲネスの共生メカニズムについて分子生物学的な観点から明らかにしたいと考えている。
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