研究課題
腸内細菌を介した免疫制御は、様々な疾患に関わることが分かり、健康科学における新潮流となっている。これまでの研究の多くは、腸管管腔や上皮細胞の粘液層に存在する細菌に焦点が当てられ解析が進められてきたが、我々は、これらの部位だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度はこれまでの研究を拡張して大腸粘膜組織にも着目し、大腸粘膜固有層に存在するマクロファージに共生する細菌としてStenotrophomonas Maltophiliaを同定し、その共生メカニズムの解明を行った。骨髄由来もしくはマウスより単離したマクロファージとStenotrophomonas maltophiliaの共培養により、ミトコンドリア呼吸とIL-10産生が増加することを見いだした。さらにsmlt2713遺伝子にコードされる分子量25 kDaのタンパク質を欠損したStenotrophomonas maltophiliaではIL-10の産生誘導能が欠失すること、逆にIL-10欠損マクロファージではStenotrophomonas maltophiliaによる細胞内共生が破綻することから、smlt2713とIL-10はそれぞれ菌、宿主細胞において共生を成立させる必須因子であることが判明した。大腸のマクロファージはIL-10を産生することで恒常性の維持に貢献していることから、本研究結果は、大腸における細胞内共生ネットワークを介した恒常性維持機構の一つを提唱したものとなる。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画の通り、Stenotrophomonas maltophiliaとマクロファージの共培養系におけるマクロファージの機能変化の解析から、抗炎症性サイトカインであるIL-10の産生を介した恒常性維持のユニーク性を明らかにした。さらに、このユニーク性がStenotrophomonas maltophiliaのSmlt2713遺伝子にコードされた分子量25 kDaのタンパク質であることを明らかにした。またStenotrophomonas maltophiliaによりマクロファージから産生誘導されたIL-10はStenotrophomonas maltophiliaのマクロファージとの細胞内共生であることが判明した。このように、本年度の成果は、Stenotrophomonas maltophiliaは、Smlt2713にコードされたタンパク質を持つことによって、大腸マクロファージからのIL-10産生を誘導することで、細胞機能を抗炎症性に変化させ、それにより腸の恒常性を保っていることを示すことができた。このように、研究は予定通り進捗していると考える。
令和1年度の検討から、共生細菌であるStenotrophomonas maltophiliaとマクロファージによる細胞内共生をつかさどる因子としてsmlt2713遺伝子にコードされる分子量25 kDaのタンパク質を同定している。一方、これまで解析を行ってきた腸管リンパ組織であるパイエル板の内部で樹状細胞に共生するAlcaligenesについては、主要菌体成分であるLPSに着目し、同じグラム陰性菌である大腸菌由来のLPSと比べ、炎症誘導活性が異なることを見いだしている。そこで、次年度以降はLPSの活性中心であるリピドAに着目した研究を進める。具体的には、AlcaligenesのリピドAの構造解析と化学合成を行うと共に、合成したリピドAを用いて、樹状細胞の活性化など宿主免疫系への作用を検討し、リピドAの構造との構造活性相関を明らかにする。さらにリピドAなどの菌体成分はワクチン効果を増強するアジュバントとしても応用可能であることが知られていることから、ワクチンアジュバントとしての有用性についても検討を行う。これらの解析によって、Alcaligenesの共生メカニズムについて分子生物学的な観点から明らかにすると共に、ワクチンアジュバントとしての応用性を提示したいと考えている。
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