研究課題/領域番号 |
18H02675
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
丸山 剛 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (30613872)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 抗原提示変化 / がん変異細胞排除 / 上皮細胞間相互作用 |
研究実績の概要 |
細胞は自身の細胞内の微小な変化を、抗原というかたちで細胞外へ開示する。この内在性抗原の提示はMHCクラスIに依存しており、傷害性T細胞の活性化によりがん細胞を含む異常細胞の認識および排除に極めて重要な役割を担う。一方で我々は、最近原がん遺伝子Rasに変異を生じたがん化初期段階にある上皮細胞は、周辺正常細胞によって管腔側(体外へ排出される方向)へと押し出される細胞競合現象を見出している。この正常細胞の抗腫瘍能応答のトリガーとして、MHCクラスIによる抗原提示が関与するという知見が得られてきた。これは、非免疫系における抗原提示とその認識機構が存在することを意味する。 上皮組織細胞層に生じたがん変異細胞は、周辺正常細胞によって駆逐されるが、重要なことに、この現象は変異細胞のみが存在する状態では起こらない。これは、正常上皮細胞と変異細胞間のクロストークが、変異細胞に対する正常細胞の抗腫瘍能を引き起こすことを意味している。正常上皮細胞が、近傍Ras変異細胞の存在を認識し、Filaminなどの細胞骨格形成因子を細胞間に能動的に集積させる。また一方で、変異細胞においては細胞骨格クロスリンカーPlectinが頂端側へ集積する(Kadeer & Maruyama et al., Sci Rep. 2017, Maruyama et al., PNAS 2017)。このように、正常および変異細胞それぞれにおいて、物理的なモーメントが生じることで、変異細胞は正常細胞層から排除される。しかしながら、「正常細胞がどのようにして、変異細胞の存在を認識しているか」という、変異細胞排除の引き金については全く不明である。本研究では、正常上皮細胞がどのようにしてがん変異細胞を「認識」し、排除能を惹起するかという疑問にアプローチする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
中期応答では、非特異的な物理的ストレスである「硬さ」以外に、がん変異細胞を認識する特異的な応答が必要となる。これまでショウジョウバエでは、正常-異常細胞間相互作用を担う膜タンパク質(FlowerやEagerなど)が同定されており、哺乳類の細胞競合でも膜タンパク質相互作用をもとにした認識機構が存在することが示唆されていた。申請者は、機能未知である受容体膜タンパク質(Suboptimal alteration recognizing protein:AltRと命名)に注目した。AltRはそのドメイン構成から免疫系に関わると予測されてきたが、同受容体を活性化するリガンドは不明であり、上皮細胞にはほとんど発現しない。しかし興味深いことに、AltRはがん変異細胞の硬さ依存的に上皮細胞でも誘導されることを見出した。硬さにより誘導されたAltRはRasV12の発現依存的に形質膜に移行促進された抗原提示関連膜タンパク質を認識する。最終的に、同膜タンパク質と相互作用したAltRは、下流のSHP2/ROCKII経路を介して、骨格形成因子Filaminを細胞境界面に集積させることで変異細胞を排除する。このように、中期段階では異常細胞をさらに精査・認識することで、正常細胞の排除能を惹起する。このことは、非免疫系である上皮細胞は抗原提示変化を認識できるという、免疫細胞に類似した機能が備わっていることを世界で初めて示した例である。
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今後の研究の推進方策 |
正常細胞の抗腫瘍能の一つとして、Filaminの集積があるが、最近の報告から隣接する正常細胞のみならず、周辺正常細胞もがん変異細胞に向かってmigrationするという、偏向的に移動することがわかってきた。今回同定したAltRがこの偏向性移動を制御するかどうかを解析する。これらに加え、今回解明した機構が、がんの腫瘍化および発がんへとどのように関わるかを解析する。手法としては、細胞移植による造腫瘍アッセイをもちいることにより、本機構が腫瘍化を制御するかを解析する。また、二段階発がんの系をもちいることで、本機構が腫瘍化のみならず、発がんを抑制するかを解析する。これにより、本機構が発がんに対して予防的な機能をもつかという、生理的な現象への関与を解析する。
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