研究課題
原がん遺伝子Rasに変異を生じたがん化初期段階にある上皮細胞は、周辺正常細胞によって管腔側(体外へ排出される方向)へと押し出される(細胞競合現象)。しかし、どのようにして正常細胞ががん変異細胞を認識しているかは不明であった。最近、我々が独自に同定した正常細胞のタンパク質受容体ECARが、変異細胞において発現亢進する抗原提示関連細胞膜タンパク質ECAを認識することで、抗腫瘍能応答を惹起することを見出した。このことは、細胞競合現象において長らく不明であった細胞間相互作用シグナルの実体の一つを示すのみならず、非免疫細胞である上皮細胞が、異常細胞のMHC-Iを認識するという免疫細胞様のサーベイランス機構を有する、という新たな生体防御機構の発見である。異常発生時を起点として正常上皮細胞は、a)がん変異細胞の物性を感知し、プライミングされる(ECARの発現誘導)、b)誘導されたECARによる変異細胞のECAの認識を経て、c)変異細胞に対する排除能を惹起する、という多段階機構であることを示してきた。例えば、正常細胞はがん変異細胞の硬さを感知することでRunx2を介して、ECARの発現が促進された状態へとプライミングされる。次に、RasV12の発現依存的に細胞表面での発現が促進されたECAをECARが認識する、これによりAltRはSHP2/ROCK2経路を介して細胞骨格形成因子を集積させることで変異細胞を上皮細胞層から排除する。加えて、ECARはCa2+シグナルを介して、周辺正常細胞群の偏向性移動を誘導することで、変異細胞の排除を促進する(偏向性移動)。このことから、ECA/ECARの相互作用はがん変異細胞に対する排除能を促進することで、がん変異細胞の発がんおよび腫瘍化を抑制していることを明らかにした。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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