研究課題/領域番号 |
18H02676
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 光保 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20194855)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GPNMB / がん幹細胞 / 休眠期がん細胞 |
研究実績の概要 |
GPNMBは、増殖が停止した乳がん細胞の一部で特異的に細胞表面に発現し、幹細胞性を誘導することで腫瘍性増殖をもたらす。増殖が停止したがん細胞でGPNMBが特異的に細胞表面に発現する分子機構と幹細胞性を誘導するシグナル機構を明らかにすることを本研究期間内の研究目的としている。 1. GPNMBの細胞表面発現制御機構 GPNMBは、スフェア培養条件した乳がん細胞で、一定の割合の細胞でだけ細胞表面に発現する。細胞表面発現を亢進させるシグナルとしてTGF-βがあることを見い出した。通常の付着培養条件で培地をスフェア培養用に換え、FAK阻害剤を添加しても細胞表面誘導は誘導されなかった。従って、GPNMBの細胞表面発現に必要十分な条件はいまだ不明である。いくつかのドメインの変異体を用いた実験でも細胞内のソーティングに影響を与えるドメインは同定されなかった。 2. GPNMB結合分子の同定 GPNMB結合タンパク質を同定することを目的として、スフェア培養したHs578T細胞を用いて、GPNMBと共沈するタンパク質の同定を試みたが、特異的に結合する分子は同定できなかった。そこで、GPNMBを発現させ、スフェア培養を行った際に発現が変動する遺伝子をRNAシークエンスによって網羅的に解析し、この条件で活性が変動するパスウェイの同定を行った。また構造シミュレーションからも結合パートナーの推定を行い、実験による確認を行なっている。 3. GPNMBの幹細胞性誘導シグナルの同定 GPNMB依存的に幹細胞性を獲得した細胞で特異的に発現している、あるいは特異的にGPNMB結合性を獲得するタンパク質は同定されていない。しかし、GPNMBによって、WNT/βカテニンシグナルが活性化されることを同定した。また、幹細胞性に関わる特定の遺伝子産物のタンパク質量が増加することも見い出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GPNMBの細胞表面発現機構については、これまでに増殖停止が条件になることを見い出していたが、分子レベルでは、その機序はわかっていなかった。今回、TGF-βで細胞表面への発現が増えることを見い出した。今後、さらに検討を加えて、TGF-βシグナルが直接GPNMBのソーティングに影響するのか、それともEMTの誘導などを介して2次的に影響しているのかを検討する。 GPNMBの下流のシグナルについては、今回β-カテニンの関与を明らかにした。また、ドメイン解析を行い、hemITAMのチロシンに加え、もう1カ所、GPNMBによる幹細胞性誘導と腫瘍形成能に必須のリン酸化部位とそのリン酸化誘導酵素を同定した。 GPNMBをはじめとして、がんの進展に関与するTGF-βシグナルの標的遺伝子として注目した複数の分子は、共通に、幹細胞性遺伝子の発現を亢進させることが明らかになってきた。GPNMBがWNT/β-カテニンシグシグナルの活性化に関与していることも見い出されている。この現象をさらに追求するために、幹細胞性を可視化するイメージングシステムも構築し、解析を始めている。さらに、これまでの培養細胞株を用いた研究に加え、患者から採取した癌細胞集団のオルガノイド培養を行なっており、GPNMBの機能解析研究とこれを標的としたがん治療薬の開発研究に用いていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、抗体作製など独自の研究材料を新たに開発するとともに、GPNMBの細胞内ソーティングと幹細胞性誘導と腫瘍形成の関係を分子レベルでさらに明瞭にする。このために、イメージングシステムの構築や、GPNMBの下流のシグナル経路、特に幹細胞性誘導に関わる経路を明らかにしていく。 また、GPNMBの特定のドメインを標的として、その機能を抑制する抗体の作製を行う。さらに、幹細胞性や細胞増殖動態を観察することができるイメージングシステムにより、GPNMBによる幹細胞性の誘導と細胞増殖周期、総細胞数の変動などを捉え、幹細胞とその他のがん細胞の相互移行の動態、特に、幹細胞性が非幹細胞から誕生することの動態の詳細な観察をおこなって腫瘍形成性増殖の細胞動態を明らかにしていく。 これらとともに患者由来細胞を用いたオルガノイド培養やPDXモデル(患者由来細胞マウス移植モデル)を用いたがん治療薬の開発研究を進める。
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