研究課題/領域番号 |
18H02678
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田賀 哲也 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (40192629)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌 / 癌幹細胞 / ニッチ / 脳腫瘍 / 生物機能性ポリマー |
研究実績の概要 |
(1)本研究ではこれまで生物機能性ポリマーアレイスクリーニングで脳腫瘍の癌幹細胞ニッチ要素として鉄分子を示唆し、鉄代謝の起点であり脳腫瘍術中診断に用いられる5-ALAの蛍光代謝産物PpIXが癌幹細胞では鉄分子取り込みで非蛍光性hemeへ転換促進されることをin vitroで示した。今年度はin vivoの系つまりp53遺伝子欠損マウス成体アストロサイトにRasV12遺伝子を導入し樹立した細胞をマウス脳内移植し脳腫瘍を形成させる系において腫瘍形成期に5-ALAを経口投与したのち摘出した脳に蛍光照射しPpIX陽性細胞の存在を示すことで次年度のPpIX陰性(術中診断回避)細胞の詳細解析に繋ぐことができた。 (2)脳腫瘍癌幹細胞ニッチ要素としての鉄代謝に関して以前ラット脳腫瘍癌幹細胞の脳内移植坦癌マウスの骨髄と脾臓で赤血球分化亢進を見出したので、今年度はその亢進の詳細を解析した。まずマウス胎仔肝臓細胞をin vitroで赤血球産生させる培養をしてFACSで赤血球系細胞系譜の各ステージを解析する系を樹立した。この系に予め調製したラット脳腫瘍細胞株の癌幹細胞集団と非癌幹細胞集団の培養上清を添加したところ癌幹細胞であるか否かに関わらず赤血球産生過程が促進することがわかった。 (3)ラット脳腫瘍癌幹細胞の培養時にネクローシスの一つオートスキジスに類する細胞死(オートスキジス様細胞死)を生じることを見出し、移植担癌マウスの腫瘍組織や患者由来細胞の培養系においてもこの細胞死を確認した。さらにこの細胞死産物がマクロファージや樹状細胞に貪食され腫瘍随伴マクロファージ(TAM)を誘導することを発見した。このTAMはマーカーによる従来解釈ではM1(抗腫瘍性)タイプであったが、さらに実施したin vitroおよび患者データベースを用いたin silicoの解析から、腫瘍促進性に働くことが示唆され、脳腫瘍において癌幹細胞のオートスキジス様細胞死が腫瘍促進性ニッチを構築するという新規概念を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前見出した、脳腫瘍の術中診断に用いられる5-ALAの蛍光代謝産物PpIXの非蛍光性hemeへの転換(鉄分子の取り込みによる)が癌幹細胞において促進しており術中診断による検出を癌幹細胞が免れる、という知見が本課題の背景となっている点において、今年度の研究実施によりマウス脳内移植・脳腫瘍モデルにおける腫瘍形成期の5-ALA経口投与で腫瘍内部および腫瘍辺縁部におけるPpIX陽性細胞の存在を示すことができ次年度において腫瘍辺縁部におけるPpIX低蓄積性細胞(術中診断を免れる脳腫瘍癌幹細胞)の分離・解析研究へと展開できる見込みとなったことから、概ね順調な進捗といえる。また、ラット脳腫瘍細胞株が、赤血球産生過程をin vivoだけでなくin vitroでも促進することを検出したという今年度の本研究の成果は、次年度のヒト脳腫瘍患者由来細胞株(熊本大学からすでに供与済みの2株を含む)を用いた展開研究に繋がるという点において、研究進捗は概ね順調と考える。なお、当初計画していた膵臓癌細胞株の癌幹細胞画分を用いた癌幹細胞ニッチポリマーに関する研究が尚次年度に継続となったことは計画以下となるが、一方で、脳腫瘍において癌幹細胞のオートスキジス様細胞死が腫瘍促進性ニッチを構築するという新規概念を提示することができた点は当初計画以上の進展であったといえる。これらを総合して今年度の本研究は概ね順調な進捗であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で遂行した網羅的な生物機能性ポリマーアレイスクリーニングによる脳腫瘍の癌幹細胞ニッチの分子要素同定研究の遂行によって、脳腫瘍癌幹細胞ニッチに鉄分子が重要な関与をしていること、および脳腫瘍の術中診断に用いられる5-ALAの蛍光代謝産物PpIXの非蛍光性hemeへの転換(鉄分子の取り込みによる)が癌幹細胞において促進しており術中診断による検出を免れる、という知見に関して、今年度、マウス脳内移植・脳腫瘍モデルにおける腫瘍形成期の5-ALA経口投与で腫瘍内部および腫瘍辺縁部におけるPpIX陽性細胞の存在を示すことができたことから、今後はこのin vivoの系を用いて、特に腫瘍辺縁部におけるPpIX低蓄積性細胞集団とPpIX通常蓄積性細胞集団をFACSにより分離・分取して各々の細胞集団の性状解析と遺伝子発現プロファイルを行うなど癌幹細胞に特徴的な分子シグニチャー解明などの展開研究を推進する。また、今年度得られた、ラット脳腫瘍細胞株が赤血球産生過程をin vivo, in vitro双方で促進するという知見については、それを踏まえて、ヒト脳腫瘍細胞株(熊本大学から供与済の2株を含む)を用いた取組により、癌幹細胞ニッチの観点からヒト脳腫瘍の病態解明へと研究を展開させる。
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