(1)本課題ではこれまで生物機能性ポリマーアレイスクリーニングで脳腫瘍の癌幹細胞ニッチ要素分子として鉄分子が関わることを示唆し、さらに癌幹細胞は鉄代謝の起点とも言える分子であり脳腫瘍の術中診断に用いられる5-ALAの蛍光代謝産物PpIXの非蛍光性hemeへの転換(鉄分子の取り込みによる)を促進することでPpIXの減少による術中診断回避能を有することを主としてラット脳腫瘍細胞株C6を用いて明らかにした。今年度はヒト脳腫瘍幹細胞へと研究を展開させるために、再発神経膠芽腫患者由来細胞株PDM19、PDM22、PDM123を用いて実験を行った。5-ALA添加培養後に細胞内のPpIXをフローサイトメトリー解析した結果、PDM123は接着培養よりもスフィア培養(癌幹細胞集団の維持に用いられる培養)においてPpIX低染色性細胞集団が増加することが観察された。そこでPDM123のPpIX低染色性、通常染色性、高染色性の3細胞集団の遺伝子発現プロファイル解析用のRNA抽出を行うために各細胞集団の分取を行っており、癌幹細胞集団に特徴的な分子シグニチャーを明らかにする前段階の状況にある。 (2)脳腫瘍癌幹細胞ニッチ要素としての鉄代謝に関してこれまでラットC6癌幹細胞画分の脳内移植坦癌マウスの骨髄で赤血球分化亢進を見出したことを踏まえ、昨年度はマウス胎仔肝臓細胞をin vitroで赤血球分化させる培養系を樹立した上で、ラットC6培養上清が赤血球分化過程を促進することを見出した。今年度はこれについてヒト脳腫瘍へと研究展開するために、初発神経膠芽腫患者由来細胞株KBT10135とKBT12137を用いて実験した結果、両株の細胞培養上清はいずれも赤血球分化過程を促進した。またスフィア形成アッセイにより両株の幹細胞性を定量したところ、鉄キレート剤処理、低酸素処理のいずれもが幹細胞性の低下に至る結果を得た。 上記の結果は、脳腫瘍幹細胞は遠隔的に赤血球分化を亢進させ自身に有利なニッチ環境を構築することを示唆する。
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