研究課題
近年の第2世代シークエンス技術(いわゆる次世代シークエンサー)の著しい発展により、全ゲノムや全エクソンを対象とした変異探索が可能となった。第2世代シークエンサーは、リード配列長が短いものの(100bp程度)、精度が高く(エラー率 0.3%程度)、コストも低い(10万円/ヒトゲノム)ため、がんゲノム研究において、広く用いられてきた。これらの研究により、肝臓がんのゲノム、転写産物への理解は飛躍的に進み、それらの情報は臨床ゲノムシークエンスの基盤として用いられるなど、肝癌の治療へ貢献すると考えられる。しかしながら、第2世代シークエンサーには短鎖であるが故の様々な限界が存在し、肝癌のゲノム異常、転写産物異常の理解は完全ではないと考えられる。短鎖(リード長が100bp程度)であるため、100bpを超える繰り返し配列の解析が困難である。転写産物解析においても、多重遺伝子族(多くの免疫系遺伝子、薬剤代謝関連遺伝子)の解析は困難であり、発現量や融合遺伝子の検出は難しい。また、転写産物解析では、エクソン間のつながりのみしか観測することはできず、転写産物の全長を測定することが不可能である。本研究では、長鎖シークエンス技術の利用により、肝癌の転写産物やゲノム変異について真の理解を得ること、また、それにより、新規融合遺伝子を含む異常転写産物を網羅的に同定することを目的とする。本年度までに、解析手法を確立し、臨床サンプルの解析を行った。来年度は、この成果を元にした分子生物学実験を行うとともに論文にまとめ発表する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
2018年度から本課題に取り組み、長鎖解析パイプラインの構築を行い、肝癌のRNAシークエンスと一部のサンプルに関して全ゲノムシークエンスを行った。その結果、肝癌と同一患者の非癌部肝臓において75,596種類と70,889種類のスプライシングバリアントを観測した。そのうち70-80%が既知のタンパクコード領域由来であり、それ以外は非コード領域由来であった。また、17%程度が新規スプライシングバリアント(融合遺伝子、エクソン長の変化を伴うバリンアント、新規のエクソンの組み合わせ)であった(Kiyose et al (投稿準備中))。なお、検出精度はRT-PCR法を用いて確認した。癌部と非癌部肝臓の比較を行ったところ、6312スプライシングバリアントが統計的に有意な発現量の違いを示した。これらの中には、細胞増殖に関する遺伝子が有意に集積しており、発癌に影響するスプライシングバリアントを正しく検出していると考えられた。肝癌と同一患者由来の正常組織由来ゲノムの全ゲノムシークエンス解析も行った。構造異常検出パイプラインを構築した結果、偽陽性率7%で構造異常の検出を可能とする精度の高い解析パイプラインが構築できた。11サンプルの肝癌サンプルを平均20X程度で全ゲノムシークエンスを行った。このデータの解析から、919種類の構造異常が同定された(Fujimoto et al (投稿準備中))。また、発癌に重要な役割を果たすと考えられる構造異常も同定された。全ゲノムシークエンスとRNAシークエンスを合わせて解析した結果、ゲノム構造の異常が融合遺伝子の生成に関与することが示唆された。
本年度は、がんで検出された転写異常の特徴を解析するとともに、発癌に関係しうる転写異常の候補の実験的検証を行う予定である。また、患者の予後との相関や、転写異常のパターン、転写異常を引き起こしうる変異の同定を行う予定である。また、長鎖シークエンサーを用いたゲノム解析も行い、転写異常の原因となる構造異常を同定する(ゲノム構造異常検出手法は開発済みである)。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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