研究課題/領域番号 |
18H02681
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
島田 緑 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (60444981)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乳癌 / カルシニューリン / サイクリンD1 / FK506 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2全てが陰性のいわゆるトリプルネガティブ乳癌対しては、薬物療法は化学療法に限定され、その予後は極めて不良である。したがって乳癌に対する有効な分子標的治療の開発が緊急課題となっている。カルシニューリンはCa2+/カルモジュリン依存性に活性化されるSer/Thr脱リン酸化酵素である。最近カルシニューリンが乳癌検体、特にトリプルネガティブ乳癌において活性化している。 トリプルネガティブ乳癌細胞株をカルシニューリン阻害薬FK506、CN585で処理すると細胞増殖は顕著に抑制され、処理後24時間では細胞死が誘導されていることが判明した。そこで詳細な細胞周期への影響についてFACSを用い検討すると、カルシニューリン阻害薬存在下ではS期細胞が減少し、細胞死集団を意味するSub G1期細胞が増加することが分かった。細胞周期の進行に必須な複数のサイクリン、Cdkなどの発現をウエスタンブロッティングで検討したところ、G1/S期の進行に必要なサイクリンD1の発現が減少し、サイクリンD1の発現減少はタンパク質分解が亢進することにより引き起こされていることが分かった。サイクリンD1を過剰発現すると部分的にG1/S期の進行遅延が抑制された。ダブルチミジンブロック法を用いてG1/S期に細胞を同調させFK506で処理後にリリースすると、G1/S期の進行が顕著に遅延した。G1/S期に同調した系においてもサイクリンD1の発現減少および標的であるRbのSer780リン酸化が減少することが分かった。CN585を用いた場合においても、サイクリンD1の発現減少、G1/S期の進行が遅延するなど、同様の結果が得られた。以上のことから、カルシニューリンはサイクリンD1の発現およびG1/S期の進行に重要である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予後不良な乳癌のサブタイプとして知られているトリプルネガティブ乳癌を含む多くのがんでは、サイクリンD1が過剰発現していることが知られている。サイクリンD1の発現制御、特にタンパク質分解制御にはサイクリンD1のThr286のリン酸化がプロテアソームによるタンパク質分解を誘導する。本研究ではサイクリンD1の発現制御に関わる新たな分子としてカルシニューリンを同定することができた。その分子機構の解明はトリプルネガティブ乳癌治療における新たなターゲットの発見につながる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
FK506は、FKBP(FK506 binding protein)と呼ばれる一群のタンパク質と結合し、複合体となってカルシニューリンの活性を阻害する特性をもつ。従ってこれまで阻害剤を用いて発見されてきた現象がカルシニューリンの生理機能を阻害しているのか、他の分子の阻害によるものであるかを厳密に検証する必要がある。従ってカルシニューリンをノックダウンすることによるサイクリンD1の発現に与える影響、細胞増殖に対する影響を検討する。サイクリンD1はThr286がリン酸化されると、SCF (Skp, Cullin, F-box containing) E3ユビキチンリガーゼによりユビキチン化され分解される。Thr286をリン酸化する酵素としてはGSK3β、ERK、p38が報告されているが、脱リン酸化の制御については不明である。カルシニューリンがサイクリンD1を脱リン酸化する可能性について検証する。
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