前立腺がんの悪性化に重要なアンドロゲン受容体(AR)は、細胞内でプロリン異性化酵素FKBP51およびFKBP52と複合体を形成することが報告されている。しかし、FKBP51/52によるARの機能調節メカニズムについてはほとんど明らかになっていない。本研究では、ヒト前立腺がんにおけるFKBP51/52の役割を解明し、新規治療標的となる可能性を検討した。 まず、前立腺がん細胞にてFKBP51/52の発現を抑制し、増殖速度、AR発現量、リガンド誘導性AR核内移行を比較した。次に、FKBP51/52発現抑制細胞を用いて網羅的遺伝子発現解析を行った。また、NanoBiT法によりAR二量体形成を観察するとともに、リガンド添加時のAR複合体の結合状態を解析した。さらに、前立腺がんと診断された患者の全摘出前立腺組織検体を免疫染色後FKBP52の発現強度で分類し、血中PSA再発率を比較した。 実験の結果、FKBP51/52は前立腺がん細胞において増殖に必須であること、AR標的遺伝子発現に関与することが分かった。AR発現量や核内移行動態について検討したところ、FKBP51/52発現抑制細胞では大きな変化が見られなかった。しかし、リガンド添加時に誘導されるAR二量体形成は顕著に阻害されたことから、FKBP51/52がARの二量体形成に重要であることが示唆された。さらにクロマチン上に局在化するARおよび活性化型ARが減少していたことから、FKBP51/52がARの転写活性化に必要であることが明らかとなった。重要なことに、FKBP52が高発現している前立腺がん患者では術後PSA再発率が有意に短くなっており、予後悪性化予測因子としての可能性が示された。
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