研究課題/領域番号 |
18H02683
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山口 知也 熊本大学, 大学院先導機構, 准教授 (70452191)
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研究分担者 |
細野 祥之 愛知県がんセンター(研究所), がん標的治療TR分野, ユニット長 (60820363)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌細胞 / カベオラ / エンドサイトーシス / ROR1 / 細胞膜 / カベオリン / 生体膜ダイナミクス / メンブレントラフィック |
研究実績の概要 |
リネジ生存癌遺伝子であるTTF-1によって転写活性化される受容体型チロシンキナーゼであるROR1は、「カベオラ」と呼ばれる生体膜ドメインの形成に関与することで、肺腺癌における重要な生存シグナルを担っている。そこで本研究では、これまで多くの謎に包まれてきた生体膜でのカベオラの詳細な生成過程や生理機能、更にはカベオラに規定される生存・増殖シグナリングの区画化など、癌細胞での生体膜における規則性や多様性、或はこれまでにない制御機構の発見を目的とした。 今年度は、昨年度に引き続き、生体膜の重要な生理機能の1つであるカベオラ依存的なエンドサイトーシスの制御に焦点を当て、ROR1による生体膜の制御機構の解明を進めた。これまでの解析から、CAVIN3によるROR1の結合部位を欠損したROR1結合部位欠損変異体を発現させた細胞では、有意にカベオラ依存的なエンドサイソーシスが阻害されることがわかり、また電子顕微鏡を用いた解析からは、カベオラ形成そのものには影響を及ぼさないことが判明した。さらに、細胞染色やショ糖濃度勾配遠心法を用いた検討から、肺腺癌細胞におけるROR1の発現抑制は、CAVIN3の細胞内局在の変化を引き起こし、カベオラ画分から消失することを見出した。このことからROR1は細胞内においてCAVIN3の適切な局在化に必須であることが分かった。次に、CAVIN3蛋白質の結合部位を欠損したROR1欠損変異体を用いて、生存シグナルへの影響を検討したところ、カベオラ依存的なエンドサイソーシスが阻害される、CAVIN3によるROR1の結合部位を欠損したROR1結合部位欠損変異体を発現させた細胞では、ERK軸のシグナリングには影響がみられないのに対して、AKT軸のシグナリングが有意に低下していることが判明した。またこの細胞では、細胞増殖の低下が顕著に認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、当初の研究実施計画の通り、概ね順調に進展した。これまでの結果から、CAVIN3が相互作用するROR1の結合領域が明らかとなったため、ROR1のCAVIN3が結合する領域を欠損させたROR1欠損変異体を作製し、肺腺癌細胞に発現させることでこの結合領域が与えるカベオラ依存的なエンドサイトーシスへの影響について検討したところ、カベオラ依存的なエンドサイトーシスの指標であるコレラトキシンの取り込みが有意に阻害されることが分かった。次に、細胞染色によってCAVIN3の局在化への影響を検討したところ、CAVIN3が結合する領域を欠損させたROR1欠損変異体では、CAVIN3が細胞膜局在から主に細胞質中に集積してくる傾向にあることが分かり、ショ糖濃度勾配遠心法による検討からも、カベオラ画分から消失していることが明らかとなった。さらに、CAVIN3蛋白質の結合部位を欠損したROR1欠損変異体を用いて、生存シグナルへの影響を検討したところ、ERKへのシグナル伝達には影響が認められないのに対して、AKTへのシグナル伝達が有意に低下することを見出した。これらの結果から、細胞内でのシグナリングエンドソームの可能性を想定し、PLA法によるリン酸化AKTと初期エンドソームのマーカーであるEEA1のタンパク質相互作用の検討を行ったところ、ROR1野生型を発現させた細胞では、EGF刺激に応じて、EEA1とリン酸化AKTの相互作用が認められるのに対して、CAVIN3が結合する領域を欠損させたROR1欠損変異体では、EGF刺激を行っても両者の相互作用は検出されなかった。さらに、細胞増殖への影響を調べたところ、CAVIN3が結合する領域を欠損させたROR1欠損変異体では、有意に細胞増殖が低下することが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、肺腺癌細胞において、ROR1はCAV1やCAVIN1と相互作用することで、カベオラ形成に関わるとともに、CAVIN3とも結合することで、CAVIN3の適切な細胞内局在化に寄与し、カベオラ依存的なエンドサイトーシスを制御する。さらに、カベオラには生存に関わる様々な受容体が存在していることから、それら受容体のリガンド刺激によってエンドサイトーシスが起こり、細胞内で生じたエンドソームにおいてPI3Kからのアダプタータンパク質であるAKTがリクルートされ、その結果、エンドソーム上で生存シグナルが惹起し、癌細胞にとって重要な生存シグナルを、経時的、かつ空間的にROR1が厳密に制御していることが分かってきた。このことは、ROR1がカベオラを通じて生体膜のダイナミクスに関与していることを示唆する結果であるといえる。最近の解析から、ROR1分子は細胞膜のみならず、細胞内で非常に動的に存在していることを超高感度カメラを用いて観察することに成功している。細胞内でドット状に見られることから、何かしらの小胞ではないかと想定される。そこで、最終年度である2020年度は、ROR1が細胞内で小胞輸送やメンブレントラフィック、選別機構にどのように関わるのか、またROR1によるカベオラ制御が細胞内でどのように行われているのか、カベオラ生成過程も考慮しつつ、生体膜ダイナミクスとしての重要性を追究する予定である。また、今年度の後半から愛知県がんセンター研究所の細野先生に分担研究者として本研究に参画することになり、生体膜のダイナミクスという観点からROR1とカベオラに着目し、個体レベルで観察可能なゼブラフィッシュモデルを駆使して、小胞形成や膜動態など検証する予定である。現在、ROR1欠損型のゼブラフィッシュを作製中である。
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