研究課題
我々の研究グループでは、新規Met阻害剤の創製を行ってきているが、ATP結合部位を標的とした化合物以外にAllosteric siteを標的とした薬剤設計も行ってきた。これらの研究の途上で、MetのKinase部位に作用し、その活性を強力に増強するStimulator低分子化合物(MKS-170)を見出した。低分子薬剤が直接Kinase部位に作用しその活性を正に制御するメカニズムについての知見は乏しく、我々はこの点の解明と刺激活性の強い薬剤の創製について検討を重ねてきた。MKS-170よりも低毒性でより強いMet刺激活性を有する新規薬剤の創製については、本化合物を基本として側鎖分子の構造を変えることで30個の誘導体を作成し、そのMet刺激活性を測定したところ、5個の化合物がMKS-170と類似の活性を示し、そのうちの1つはより低濃度でMet刺激効果を有する活性の強い化合物であることが判明した。したがって、更なる薬剤デザインを工夫した誘導体を作成し、Met Kinase刺激特性の解析を行っているところである。また、Stimulator低分子化合物とMet Kinase Domainとの結合様式を明らかにすることを目的に、コムギ胚芽の系を用いてRecombinant Met Kinase Domainの発現精製を行っているところである。現在のところ、これまでの研究に使用している組換え型Met Kinaseよりも粗精製の状態で160倍活性の強い溶液を得ることができており、これをもとにスケールアップ並びに精製を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の初年度は、「Met Stimulator活性を示す低分子化合物の設計」及び「結合部位の構造解析」を目標に研究計画を立て、実験を行ってきた。前者については、研究実績の概要にも示したとおり、作成した誘導体の中からMKS-170よりもより強い活性を示す化合物(IC50にして約1/3~1/10で同等の活性を示す)を見出しており、この化合物をもとにさらに構造設計に工夫を施すことにより、目的とする低IC50値で有効なMet Stimulator活性を示す低分子化合物開発に到達できる可能性が出てきた。また、後者については、(1)Met Kinase Domainと低分子化合物と複合体をトリプシン処理して質量分析計に掛けることにより結合部位のアミノ酸配列を推測していく方法と、(2)Met Kinase Domainと化合物との複合体を形成しX線構造解析に掛ける方法との2つの方向性から解析を続ける予定にしており、今後に向けて更なる準備を行うことにしている。
これまで作成した低分子化合物をもとに更なる設計の改良を重ね、最適化分子設計及び化学合成の達成、細胞系及びin vivoにおける薬効・毒性評価、動物モデルを用いたパイロットスタディに繋げていきたいと考えている。低分子阻害剤の開発については、これまで行われてきたハイスループット・スクリーニングやin silico drug designなどの手法を利用できるが、Stimulator機能を持つ低分子化合物の開発については、明確なストラテジーが示されているわけではないので、我々が見出した基準物質MKS-170に対する種々の観点からの修飾の方法も考慮に入れ、実験結果にフィードバックを掛けつつ薬剤開発を行っていきたい。
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