研究課題/領域番号 |
18H02687
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 宏昭 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (20401250)
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研究分担者 |
山口 美樹 札幌医科大学, 医学部, 助教 (10530454)
田原 秀晃 東京大学, 医科学研究所, 特任教授 (70322071)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん |
研究実績の概要 |
がん細胞だけに特異的に侵入し静脈内投与可能な標的化腫瘍溶解性ウイルス療法が開発できれば、原発巣のみならず全身の転移巣にも有効な治療法となりえる。私たちの研究グループの内田らは最近、単純ヘルぺスウイルス(HSV)にがん細胞表面抗原を認識する単鎖抗体を組み込むことにより、標的細胞のみに侵入可能な標的化HSVの構築に独自に成功した。この標的化HSVは、現在臨床開発が進められているウイルス複製の段階でがん選択性を発揮するHSVに比して、より静脈内投与に適していると考えられる。事実、内田らは、標的化HSVを担がんマウスの静脈内に投与すると腫瘍へ強く集積(正常臓器の100-1,000倍)することを報告している。そこで本研究では、私たちが現有する標的化HSVの静脈内投与薬としての能力を評価し、その腫瘍組織への送達と抗腫瘍効果を減弱しうる機序について検討する。そして、私たち独自のウイルス工学技術によりこれらの課題を克服して、革新的ながん治療法を実用化することを目指す。当該年度までに、免疫不全マウスにヒトがん細胞株を移植したモデルにおいて、現有の標的化HSVの性能評価を施行した。まず、標的化HSVの腫瘍内投与により強力な抗腫瘍効果が得られることを再確認した。そして、この抗腫瘍効果は、標的化改変を施していないタイプの腫瘍溶解性HSVのそれに比して、はるかに高いレベルであることが明らかとなった。さらに、この標的化HSVに膜融合促進変異(syncytial変異)を導入した改変ウイルス(内田らが以前in vitro特性を報告)についても同様のモデルにて評価したところ、腫瘍内投与した際の抗腫瘍効果が顕著に増強された上、静脈内投与した際にもきわめて強力な抗腫瘍効果が観察された。そこでこれらの検討を免疫正常マウスにて施行するために、ヒトがん細胞株に近似したHSV感受性を示す同系がん細胞株の選別を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちの研究グループが独自に開発している標的化改変腫瘍溶解性HSVが、これまで他のグループによって開発されてきた標的化改変を施していないタイプの腫瘍溶解性HSVに比べ、より強力な抗腫瘍効果を発揮し得ることを示唆する結果が認められたこと、これに膜融合促進変異を導入することによりさらに抗腫瘍効果を増強し得ることを示唆する結果が認められたこと、さらに、これらの標的化HSVを正常な免疫を有する同系マウスモデルで評価するための準備が完了しつつある段階にまで至ったため。
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今後の研究の推進方策 |
正常な免疫を有する同系マウスモデルにおいて私たちの標的化HSVを腫瘍内投与あるいは静脈内投与した際の抗腫瘍効果を評価する。膜融合促進変異を導入した標的化HSVも評価に加える。その上で、特に静脈内投与したウイルスの腫瘍組織への送達と抗腫瘍効果にどのような改善を図る余地があるかについて検討する。
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