研究課題
がん患者より分離したがん浸潤リンパ球由来TCRが認識する抗原を同定する基盤を確立するために、1)がん細胞特異的TCRの取得、2)TCRの抗原同定、3)同定したペプチドからの抗原タンパク質予測、4)試験TCRの反応性の検証、の4工程を計画した。2018年度は、これら4工程うち、1と2を重点的に行った。がん細胞特異的TCRの取得のために、21症例の大腸がん患者、10症例の乳がん患者より分離した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)由来CD8+/PD-1+細胞のTCRレパートリーを解析した。これら細胞は、同一TCR遺伝子を発現するT細胞が見いだされたことから、クローナルに増殖していることが示された。クローナルに増殖していたTIL由来TCRが、プライマリーのがん細胞に反応するか検討した。次に、Cancer Tissue-Originated Spheroid (CTOS)法を用いて、試験TCRに対する標的細胞の樹立を行った。先に単離したTIL由来TCRに対する標的細胞への反応性を、TCRを導入したT細胞を用いて検討した。その結果、現在までに1種類のがん患者のTIL由来TCRが、その患者由来CTOSに反応し、IFN-γの産生が認められた。TCRの抗原同定のために、TCRの抗原であるペプチド/MHCを可溶化し、4量体化させたペプチド/MHC-テトラマーが広く用いられている。従来のペプチド/MHCは大腸菌で作製されてきた。しかしながらこの方法では、リフォールディングの行程が必要であり、その作製は容易ではなかった。我々は、ペプチド/MHCを哺乳類細胞株で産生させ、リフォールディングの行程を必要とせず、2週間程度で1mg以上のペプチド/MHCを容易に作製できる新技術の開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
がん細胞特異的TCRの取得のための基盤が確立できたこと、また、TCRの抗原を同定するために必要なペプチド/MHC-テトラマーの作製技術が確立できたことで、本研究遂行に向けた基盤技術を整えることができた。これらの基盤を元に、さらなるがん細胞特異的TCRの取得と、そのTCRの抗原同定を進めることが行えるようになった。そのため、おおむね順調に進展している、とした。
がん細胞特異的TCRの取得は、現在までに1種類であるが成功した。このTCRを用いて、次の行程の抗原同定へと進めていく。またTCRレパートリー解析と、がん細胞との反応性の検証系が確立できた。この系を用いて、2019年度も引き続き、がん細胞特異的TCRの取得を続けていく。TCRの抗原同定に有用なペプチド/MHCテトラマーの容易な作製法が確立できた。これは、がん細胞特異的TCRの同定に有用なツールとなることが期待される。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件)
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