研究課題
癌免疫療法が免疫チェックポイント阻害剤の効果により脚光を浴びている一方で、抗腫瘍免疫反応に応答して癌細胞が免疫抵抗性形質を獲得することが示されている。申請者は、癌特異的な細胞傷害性T細胞の産生するIFN-γに応答して癌細胞に新たな変異が誘導され、癌細胞が免疫抵抗性となり免疫治療をエスケープすることを報告した(cancer genome immunoediting)。本研究の目的は、発癌・増殖の過程を通じて、癌微小環境で抗腫瘍免疫反応に応答して癌細胞の遺伝子不安定性が増強し、癌細胞が免疫抵抗性を獲得し悪性度を増強する分子機構を明らかにすることである。今年度は、癌細胞に後天的に発現しうる分子の一つとして既に見出していた(未発表)CD155の免疫エスケープにおける役割を検討した。CD155は宿主由来のミエロイド系の細胞にも発現することから、CD155ノックアウトマウスを用いて実験を行ったところ、DNAM-1の発現増強を伴う細胞傷害性CD8T細胞とNK細胞の活性化により、癌の増殖と転移の抑制が示された。癌細胞におけるCD155の発現も同様の結果を示し、抗PD-1抗体治療への感受性が高まった。CD155ノックアウトマウスに移植したCD155発現癌細胞は、さらに抗腫瘍免疫への感受性が増強した。以上の結果から、癌細胞および宿主ミエロイド系細胞でのCD155の発現は、癌細胞の抗腫瘍免疫反応からのエスケープに関与する分子の一つであることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、網羅的遺伝子解析と細胞生物学的解析を並行して行い、癌細胞が抗腫瘍免疫に応答して免疫回避能を獲得する分子機構を解析する。 今年度の研究成果として、これまでの研究で見出していた癌細胞におけるCD155の発現が、抗腫瘍免疫を抑制し癌細胞が免疫を回避して増殖することに寄与することを示す結果が得られたことは、本申請研究の方向性の正当性が示されたものと考えている。宿主免疫を誘導しながらも癌遺伝子を発現しつつ増殖するneoantigen/rasH2発現癌細胞由来のクローンがこれまでの研究により既に得られているので、今後はこの細胞を用いた研究を中心に進めていく。
当初の計画に従い、single cell解析が可能な特徴的な遺伝子配列を持つバーコード遺伝子を導入したneoantigen/rasH2発現癌細胞の作製を進める。その後、この癌細胞をWTまたはRAGノックアウトマウスに皮下移植し、種々の免疫療法を施し、治療抵抗性を獲得し増殖する癌細胞から得たsingle cellからDNAおよびRNAを抽出し、免疫反応やゲノムの不安定化、癌幹細胞化に関連する分子等の遺伝子の発現変化を解析する。同時に、バーコード遺伝子の導入が難航した場合に備えて、バーコード遺伝子導入前の細胞を用いた同様の研究も進める。さらに、これらに解析により結果が得られるには時間がかかると考えられるため、本年度の研究業績の概要に示した様な、これまでの解析により生体内で増殖している癌細胞に後天的に発現することが示されている分子の抗腫瘍免疫に対する作用の解析を並行して行う。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件)
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