研究課題
生体に備わる免疫応答を意図的に増幅し全身的な治療効果すなわちアブスコパル効果を惹起させることは腫瘍学上も大変斬新で魅力的であり、革新的な次世代の治療法に貢献し得る。近年癌治療の場面で最大の注目を集め続ける腫瘍免疫に着目しつつ、免疫チェックポイント阻害薬を用いて放射線照射を局所から全身治療へと発展させる新規治療戦略の開発を見据えた科学的根拠を分子細胞レベルで確立し臨床応用することが本研究の目的である。飛躍的に運用が拡がる免疫チェックポイント阻害剤だが、依然として以下の問題点が挙げられる。I. 標的病変の良好な反応性および生命予後延長が期待できる治療患者選別のためのバイオマーカーが未だ十分に確立していない II. 放射線治療併用における安全性有効性の検証が不十分 III.アブスコパル効果誘導に対するバイオマーカーが不明 IV. 腫瘍特異的遺伝子変異由来の新生抗原(ネオアンチゲン)が未解明これらのcriticalな問題点を解決するため、下記プロトコールの前向き臨床研究を検討した。I.放射線治療未施行例の原発巣または少数転移病巣:標的腫瘍に50Gy/5分割でSBRT II.放射線治療既施行例の照射野内再発病巣:サイズに応じて30-40Gy/5-8分割でSBRTprimary endpointは非標的病変に対する治療効果=アブスコパル効果の有無、secondary endpointは、IVR技術を用い治療前後に採取した標的・非標的病変腫瘍組織における特異的遺伝子変異の全エクソンシーケンスによる同定である。初年度は国内外で進むphase I/IIのoligometastasis症例に対する臨床試験等のバイオマーカー探索の詳細を徹底的に調査し、二年目は免疫治療で不可欠なPD-(L)1抗体等が投与される内科・泌尿器科・頭頸部腫瘍科・乳腺外科を含む横断的協力体制を構築し研究継続している。
3: やや遅れている
アブスコパル効果の生物分子学的検討において、本研究の主幹をなす次世代シーケンサーを活用する取組みは極めて斬新で学問的価値が高く、広くがん治療に貢献することが期待できる。成果の発信に向けて国内外で進むphase I/IIの、多くはoligometastasis症例を対象とした各種臨床試験等のバイオマーカー探索の詳細を徹底的に調査した。バイオマーカーと免疫応答関連遺伝子マルチオミックス解析による知見を集積するため、国内で主導的立場にあり優れた業績を有する当該施設のIVRチームとの連携により治療前後の腫瘍・正常組織の採取が可能となり、上記の如く緻密な前向き臨床研究プロトコールを科横断的に討議検討しまとめ上げた。一方で、現在実臨床で運用可能な免疫チェックポイント阻害薬(PD-1抗体・PD-L1抗体・CTLA-4阻害薬)が本年度も相次いで報告されたエビデンスにしたがって認可承認が進み、かつてない早さでがん診療の考え方が変化しており、研究内容の詳細を複数回に渡って微調整する必要が生じた。このため同薬剤が投与される内科・泌尿器科・頭頸部腫瘍科だけでなく消化器外科・乳腺外科との円滑な協力体制構築に慎重な吟味を余儀なくされ、実現可能性を見据えた学内および研究協力機関である東京大学医学部附属病院と協議を続けてプロトコールが完成した。現在学内倫理審査変更申請中である。新臨床研究法に則った厳密な倫理審査自体に相当の時間を要しており、当初の予定よりも進捗が遅延しているが、より質の高い倫理的にも優れた研究遂行のため努力を続けている。また当該年度の後半から、新型コロナウイルスpandemic関連の院内業務遅延(特に本研究で根幹となる侵襲的組織生検手技がすべて延期対象とされたこと)と購入予定であったパナソニック社のPC生産中断の影響を受けたため進捗が滞っている。
前向き臨床研究プロトコール変更の倫理審査承認が得られ次第、免疫治療担当科となる内科・泌尿器科・頭頸部腫瘍科・乳腺外科からの迅速な症例集積を行う。特にCOVID-19収束状況を注意深く見据えて、本研究遂行上不可欠な本学IVRチームとの連携により治療前後の標的・非標的腫瘍組織の精力的な採取を実施し、検体は次世代シークエンス解析のためバイク便で速やかに研究分担先の東京大学免疫細胞治療学講座に運搬する。運搬先にはTRに必要な分子免疫学的設備が充足しており、RNA抽出、ネオアンチゲン候補ペプチド選出と免疫原性の検証、細胞培養が実施できる。NGS解析は、理研統合生命医科学センターとの共同運用も引き続き行う。なお本学には高精度体外照射や小線源治療・ラジウム放射免疫療法等最先端の治療装置が備わっており、機械学習・ラジオミクス・モンテカルロ演算・数理統計研究でトップレベルの医学物理チームとも毎日カンファレンスを行っているため、効率よく研究を推進できる。実患者からの検体採取が不可欠な要素であるため、COVID-19が本研究に与えた影響は甚大ではあるが、支援体制と本年度の挽回に向けた意欲は旺盛であり、困難な社会状況下でも持続可能なTR研究のあり方についても提示したいと考えている。
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