Long non-coding RNA(lncRNA)の定義は「タンパク質をコードしない200塩基以上のRNA」とされているが、実は100アミノ酸残基以下の小さなOpen Reading Frame(ORF)を持つと予測されるものも多い。申請者はこれまでにlncRNAに存在する小さなORFから翻訳される新規ポリペプチド群を同定し、それらが重要な機能を持つことを明らかにした。本研究計画では脳・神経系の疾患に関連のある、lncRNA由来の8個の候補ポリペプチドの機能解析を進めることにより、疾患との関連を明らかにしていくことにした。 まず、FLAGなどのタグ配列をノックインしたマウスの作製を行った。本研究期間において、計4種のタグノックインマウスを作製して内在性の発現を確認行ったことから、これら新規ポリペプチドが脳内でも間違い無く翻訳されていることを証明した。 さらに2種のノックアウトマウスに関しては網羅的な行動解析を行ったところ、様々な行動異常を示すことが明らかとなった。このことは、これら新規ポリペプチドが機能性であることを示している。 さらに行動解析を行ったうちの1種のポリペプチドに関しては、分子機構の解析も進めた。このポリペプチドは核移行シグナルを持ち核内に局在して、HDAC3複合体を形成するサブユニットの全てと非常に強く結合していること、及びRNA-seq解析によりKOマウスの脳でトランスクリプトームが変化していることなどを明らかにした。これらの結果より、新規ポリペプチドの欠損によりHDAC3複合体の活性に障害が生じ、ヒストンアセチル化状態の変化に起因する脳内のトランスクリプトームの変化により、様々な行動異常を示すということが考えられた。新規ポリペプチドは非常に小さな分子であるにも関わらず、生理的にも重要な機能を持ち、その破綻は社会性の行動異常などに繋がることが示された。
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