研究課題
申請者らがこれまでに見出した、子育て行動に必須の脳部位である内側視索前野中央部cMPOAに発現し、かつ母親メスで未産メスより発現量が大幅に上昇する分子として、カルシトニン受容体CALCRを見出している。CALCRは本来カルシトニンをリガンドとする7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体であるが、脳内にはカルシトニンが分布せず、アミリンというペプチドホルモンと結合して活性化する。申請者らは、CALCRもMPOAに高発現し、養育行動によって活性化する神経細胞と共局在することを見出している(丸山、修士論文)。そして本研究ではこれまでに、Calcr発現ニューロンの機能を抑制すると、未経産でも母親でも大幅に子育て行動が減弱し、とくに母親では、出産後の子の80%が数日中に死亡することを見出した。さらにCalcrの分子発現だけを約半分に抑制すると、ホームケージでは子育てできても、高架式十字迷路上の子(救出するためにリスクを冒す必要がある状況)ではレトリービングが遅れることを見出した。さらに今年度はアミリン分子KOが養育行動に与える影響を、各種行動試験により検討した。その結果、アミリンKOにより、高架式十字迷路上の子をレトリービングするタスクには有意差がなかったが、Open arm上の滞在が増えるなど、通常と異なる行動を示した。これらの結果より、カルシトニンレセプター遺伝子の発現抑制に比べるとマイルドな表現型が観察された。本成果を投稿し、Acceptを得た。
2: おおむね順調に進展している
主たる計画の大部分を終了し、論文を投稿し、Accepted in principleを得たところである。現在、最終ファイルの投稿を行っている。
今年度は、これまでの本研究で効果が部分的であったshort hairpin RNAを用いたCalcrの発現抑制に加え、CalcrのConditional KOマウスを用い、養育行動に与える影響を検証する。また並行して、Calcrリガンドであるアミリンを発現するニューロンとCalcr発現ニューロンの相互作用の様式について検討を行う。形態学的な解析では、Calcrニューロンがアミリンニューロンに対しプレシナプスであり、ポストシナプス側のアミリンが逆行性にCalcrに結合し相互作用すると考えられたが、実際にこの2種類のニューロンが、子どもという刺激を受けたのちにどちらがその入力を受け、またシナプス間隙またはその近傍でアミリンがCalcrに結合するとCalcrニューロン側にどのような変化が起きるのか、などを、薬理学的手法で検討する準備を進めている。さらに電気生理学的手法でも行うことができるかを検討中である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Cell Reports
巻: - ページ: -
Psychiatry and Clinical Neurosciences
巻: 74 ページ: 516~526
10.1111/pcn.13096