研究実績の概要 |
人間や動物にとって、自分が経験した出来事を記憶することは、日常生活を営む上で非常に重要である。申請者はこれまで、げっ歯類動物であるラットの海馬CA1領域において、経験している出来事の情報を表現する「イベント・ニューロン」という神経細胞が存在すること神経生理学実験により発見し、海馬の神経ネットワークにおける出来事とその時系列表現を明らかにしてきた。本研究では、海馬における時系列記憶形成の神経回路メカニズムの詳細を解明することを目的とする研究を行った。 昨年度は、海馬の神経回路でいかに時間経過に対しての順序表現が形成されるかを明らかにしていく研究を行った。まず行動課題として、動物の意思決定において時間の経過情報を必要とする間隔二等分課題を実行させ、そのときの海馬CA1のニューロンの発火活動を高密度大規模シリコンプローブ電極を用いて計測する実験を行った。海馬に高密度シリコンプローブを配置し、海馬領域のニューロンの活動を同時に網羅的に観測することにより、海馬の時間を表現する細胞は必要に応じてその時間表象をフレキシブルに可変できるということを明らかになった。また、この海馬での時間表現は、動物の計時をもとにした意思決定行動にも強く反映されていることも明らかにした。さらに、これらの細胞群がこれまで報告されていた空間情報に応答する海馬の細胞群と同じ神経生理学的特徴を持つことも発見した。これらの結果は、海馬の細胞群が空間情報と時間情報を同じメカニズムを用いて表現していることを示唆しており、「いつ、どこで、何を」を統合したエピソード記憶の神経基盤を理解する上で重要だと考えらる。本研究は論文としてまとめられ、Science Advances誌に掲載された(Shimbo et al., Science Advances 2021)。
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