研究実績の概要 |
既存薬が効かない「難治性てんかん」の治療薬開発は重要である。この難治性てんかんには「ケトン食療法」と呼ばれる食事療法が有効であることが知られている。そこで本研究では、ケトン食の作用メカニズムに基づく治療薬開発を目指して、以下2項目を実施した。 1、我々はこれまで、ケトン食の作用点として乳酸脱水素酵素を同定し、乳酸脱水素酵素阻害により抗てんかん作用が生じることを明らかにしてきた(Science, 2015)。乳酸脱水素酵素は、LDHAとLDHBの2つのサブユニットからなる酵素である。そこで本年度は、慢性てんかんモデルマウス(海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんモデル)における、海馬内の2つのサブユニットの発現量変化を調べた。その結果、慢性てんかんモデルではLDHAの発現量が上昇するのに対し、LDHBの発現量は変化しないことが分かった。さらに、海馬内のLDHAを阻害すると、てんかん発作が抑えられた。これらの結果を統合すると、「てんかん発症によりLDHA発現量が上昇し、LDHA阻害によりてんかん発作が抑えられる」ことが明らかとなった(Epilepsia, 2020)。 2、ケトン食による主要代謝産物として、ケトン体が知られている。我々はこれまで、ケトン体が電位依存性カルシウムチャネルを阻害し、抗てんかん作用を示すことを明らかにするだけでなく、より強力なケトン体アナログも見出している(Epilepsia, 2017)。一方で、電位依存性カルシウムチャネルを特徴づけるα1サブユニットとしてP/Q, N, L, R, T型が知られているが、その作用サブユニットは不明である。そこで本年度は、海馬スライス標本からのパッチクランプ記録下で、電位依存性カルシウム電流を単離し、サブユニット選択的阻害剤を用いることで電流成分を解析した。
|