研究実績の概要 |
既存薬が効かない難治性てんかんに対し、ケトン食を用いた食事療法が有効であることが知られている。また、ケトン食は難治性てんかんのみならず、がんやアルツハイマー病といった難治性疾患への作用も注目されている。そこで本研究では、ケトン食の作用メカニズムに基づく治療薬開発を目指して、以下3項目を実施した。 1、ケトン食の主要代謝産物として、ケトン体(アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸)が知られている。我々はこれまで、アセト酢酸が電位依存性カルシウムチャネルを阻害し、in vivo 抗てんかん作用を示すことを明らかにしてきた(Epilepsia, 2017)。そして昨年度から、βヒドロキシ酪酸の作用解析を進めており、本年度においてβヒドロキシ酪酸による電位依存性カルシウムチャネル阻害を担うα1サブユニットを決定した。さらに、そのα1サブユニットを阻害することにより、in vivo 抗てんかん作用を示すことも明らかにした。 2、我々は昨年度までに、ケトン食の主要代謝産物であるβヒドロキシ酪酸が in vivo マウスモデルのアルツハイマー病様症状を回復させることを明らかにしている。そこで本年度は、アルツハイマー病様症状を回復させるβヒドロキシ酪酸血中濃度を明らかにすると共に、この作用メカニズム解析に取り組んだ。 3、我々はこれまで、ケトン食による抗てんかん作用を担う分子として、乳酸脱水素酵素を同定してきた(Science, 2015; Epilepsia, 2020)。乳酸脱水素酵素を阻害すると、がん代謝を介して抗がん作用を示すことが知られており、ケトン食による抗がん作用も報告されている。そこで本年度は、ケトン食と難治性てんかん研究で得られた知見をがん研究に生かすべく、乳酸脱水素酵素阻害による抗がん作用メカニズムに関して検討した。
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