研究課題/領域番号 |
18H02722
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
加藤 総夫 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20169519)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 慢性痛 / 三叉神経 / 腕傍核 / 光遺伝学 / 化学遺伝学 / 扁桃体 / 痛み情動 / 中枢性感作 |
研究実績の概要 |
以下の3項目の研究を進めた。 1.脊髄後角(DH)-腕傍核(LPB)シナプス伝達の記録:脊髄浅層に局在する興奮性ニューロンからのシナプス入力を選択的に腕傍核で光刺激し、シナプス伝達を誘発することを目指した。すでに確立している脊髄後角への遺伝子導入技術を導入したが、浅層のみへの選択的導入の再現性が低いこと、脊髄後角周囲組織への侵襲性が高いこと、さらに脳までの分子輸送にかなりの時間がかかることを見いだした。そこで、近年、三叉神経侵害受容性一次求心線維が直接腕傍核に投射する事実が報告されたことに着目し、三叉神経節への経皮的直接的ウィルス導入を試み、良好な導入成績を得た。再現性と安定性を向上させつつある。 2.Fos-TRAP (Targeted Recombination in Active Populations) マウスを用いた慢性痛特異的ニューロンからのシナプス入力の解析:同マウスで足底部ホルマリン炎症性疼痛モデルを作製し、ホルマリン注射から4-ヒドロキシタモキシフェン投与までの時間を120分から300分まで変化させることによるcreリコンビナーゼ依存的EYFP発現を観察した。300分以上の間隔を置くことによって侵害受容特異的EYFP発現が認められた。扁桃体中心核および腕傍核におけるこれらのニューロンの興奮特性の解析をパッチクランプ法で進めている。また、活性化依存的にチャネルロドプシンを発現させる実験に着手した。 3.AAV-WGA-Creベクターを使ったDH内LPB投射ニューロンからのシナプス入力解析:脊髄後角からLPBに投射を持つニューロンだけにCreリコンビナーゼを発現させ、これにChR2を発現させて特定の入力のみを活性化させる系の確立を試みた。発現効率を向上させるべく、現在逆行性取込み輸送型AAV(rg)を導入し、比較検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脊髄後角浅層への特異的遺伝子導入が予想外に困難を極めた。困難であるのみではなく、(1)脊髄後根~後角への損傷による傷害、(2)深層への非特異的導入の可能性、(3)神経細胞に導入されたとしても、その上行性軸索終末まで機能タンパクが輸送されるのに要する時間、など、腕傍核における疼痛依存的シナプス可塑性を検討する上での効率が低い可能性が見出された。本研究の目的には向かないと結論した。そこで、近年、三叉神経侵害受容性一次求心線維が直接腕傍核に投射する事実が見出されたことに着目し、三叉神経節への経皮的直接的ウィルス導入を試み、良好な導入成績を得た。再現性と安定性を向上させつつある。またFos-TRAP法を用いた活動依存的遺伝子発現の系を立ち上げ検討を進めている。特に扁桃体においては、疼痛モデル処理を施していない通常時においても比較的Fos活性が高いことが見出されたため、活動依存的にcreリコンビナーゼを発現させるにあたり、タモキシフェン投与までの時間、ハンドリング手技、吸入麻酔薬そのものによる扁桃体活性化など、「シグナル/ノイズ比」を向上させる工夫を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)三叉神経侵害受容性一次求心線維から腕傍核への直接投射ニューロンにChR2を導入し、一次求心線維→腕傍核ニューロン間シナプス伝達を記録する。三叉神経領域疼痛モデルにおけるその可塑的変化を脳スライスで評価する。(2)FosTRAPマウスで、炎症性疼痛モデルを作製し、活性化する腕傍核ならびに扁桃体中心核ニューロンに選択的にEYFPおよびChR2を発現させる。疼痛関連ニューロンの①興奮性の特徴、②脳内投射パターン、および、③シナプス伝達の特徴を中心に解析する。(3)FosTRAPマウスで、炎症性疼痛で活性化する腕傍核ならびに扁桃体中心核ニューロンにDREADDを発現させ、その人工的活性化が侵害受容逃避行動に及ぼす影響を観察する。(4)扁桃体中心核に逆行性取込み輸送型AAV(rg)ウィルスベクターを導入してcreリコンビナーゼを扁桃体中心核投射ニューロンに発現させる。そのうち、外側腕傍核ニューロンに興奮性DREADDもしくはEYFPを発現させる。上記(1)の系と組み合わせ、扁桃体投射ニューロンへの三叉神経シナプス伝達の解析を進めるとともに、CNO投与によるDREADD活性化が侵害受容応答に及ぼす影響を検討する。以上の実験を進め、三叉神経・腕傍核・扁桃体中心核による痛み情動と侵害受容感度調節の分子・細胞機構を明らかにする。
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