研究課題/領域番号 |
18H02726
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋下 雅弘 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (00261975)
|
研究分担者 |
小川 純人 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20323579)
孫 輔卿 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (20625256)
小島 太郎 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40401111)
亀山 祐美 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60505882)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 血管炎症 / フレイル / 階層構造 / 老化 / 大動脈瘤 |
研究実績の概要 |
2019年度は血管細胞が主導する新たな血管老化機序を見出すことを目的とし、特に血管細胞のアポトーシスや形質変換による炎症惹起機序、さらに血管老化病態の発症・進行に与える影響を検討した。具体的には動脈硬化や血管石灰化の危険因子である高リン負荷が血管炎症および炎症を主体とする大動脈瘤の形成に与える影響を検討することで、我々が培養系で明らかにしてきた高リン刺激による血管細胞のアポトーシスや形質変換の機序が血管炎症の惹起や大動脈瘤の形成に寄与するか、またその分子機序について検討を行った。高リン負荷は高リン食(混餌給餌)を用いて行った。野生型マウスで8週間の高リン食後に血管炎症を誘導し、その4週後に炎症惹起および大動脈瘤の形成への影響を検討した。その結果、高リン食は普通食に比べて、大動脈瘤の形成を著しく促進することが分かった。大動脈でのF4/80やIL-1beta発現の上昇とともに、大動脈瘤の病変周辺にTUNEL陽性のアポトーシス細胞の局在、さらに石灰化の所見が認められた。また高リン食の大動脈ではタイプIII型ナトリウム(Na)依存性リン共輪送体(Pit-1)発現の上昇、骨芽細胞様形質変換を制御する因子Runx2発現の上昇、アポトーシス抑制因子growth-arrest specific gene 6 (Gas6)やpAkt発現の低下が明らかになった。したがって、高リン食による大動脈瘤の形成促進には血管石灰化が寄与する可能性があり、大動脈瘤の主たる発症機序である炎症惹起に石灰化の発症機序である血管平滑筋細胞のアポトーシスや骨芽細胞様形質の変換が影響を与える可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は新規血管老化の機序として、血管細胞のアポトーシスや形質変換が主導する炎症惹起機序を明らかにするとともに血管炎症と連動する血中炎症誘導因子および特定の炎症細胞を介して下流臓器特異的に炎症を波及・拡大する機序を明らかにすることを目的とする。そのなか、今年度は大動脈瘤誘導のマウスモデルを用いて、高リン食による血管炎症惹起および大動脈瘤形成の促進作用を明らかにすることができた。特に、その作用には血管石灰化が寄与することが示唆され、我々が培養系で明らかにしてきた高リン刺激による血管石灰化の発症機序、具体的には血管平滑筋細胞の骨芽細胞様形質変換およびアポトーシスが血管炎症を惹起する可能性を突き詰めた。 今後は、培養系での高リン刺激による血管平滑筋細胞のアポトーシスや形質変換の分子機序が高リン食による大動脈瘤形成の促進に寄与する分子機序、特に炎症惹起の機序との関連について、組織学的、分子生物学的な実験で追求する予定である。さらに、高リン食がもたらすリン代謝の異常も明確にしたうえで、高リン食による血管炎症の惹起が血中症誘導因子や特定の炎症細胞の分布および形質に及ぼす影響、また下流臓器への炎症波及・拡大に及ぼす影響を検討する。最終的には、リンの作用を阻害・制御できる因子の投与が血管平滑筋細胞のアポトーシスや形質変換の抑制を介して血管炎症および血管老化病態を抑制する効果を示すかを試す。さらには、下流のフレイル関連臓器の老化や機能不全を抑制できる効果までを追求し、フレイル予防および治療戦略につなげることを期待する。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は、まず高リン食によるリン代謝系の異常を明確にする。血中リン濃度の上昇およびカルシウム濃度の低下、FGF23濃度の上昇とともに、尿中のリンおよびクレアチニン値の上昇を確認する。また、高リン食による石灰化および大動脈瘤の形成促進の機序を明らかにすべく、石灰化の発症機序である血管平滑筋細胞のアポトーシスや骨芽細胞様形質と炎症惹起の関係を組織学的、分子生物学的な検討で追求する。具体的には、高リン食と血管炎症による大動脈瘤誘導0、7、14,28日後の血漿および大動脈を用いて、瘤形成の経時的な変化を観察するとともにvon kassa染色による石灰化の所見、TUNEL染色によるアポトーシス、F4/80陽性マクロファージの浸潤を経時的に観察する。また、大動脈での骨代謝制御因子(Runx2、Msx2など)やアポトーシス関連因子(Gas6、pAkt、caspase3など)、炎症性サイトカイン(TNFa、IL-1beta、IL-6など)の経時的な発現変化を検討することで、石灰化と大動脈瘤形成の関係を明らかにする。さらに、高リン食により上昇するタイプIII型ナトリウム(Na)依存性リン共輪送体(Pit-1)の阻害剤やsiRNAを用いた発現制御や鉄ベースのリン吸着剤であるクエン酸鉄の投与を試みて、高リン食による石灰化誘導および大動脈瘤形成に対する抑制効果やその機序を明らかにする予定である。
|