研究実績の概要 |
本研究では加齢に伴うフレイルの発症には慢性炎症を軸とする階層構造が存在し、特に血管炎症がフレイル関連臓器の機能低下を制御する上流と位置づけ、骨格筋や脳・神経へ炎症反応を波及・拡大することで、サルコペニア、認知症を引き起こす構造が考えらえる。したがって、フレイル関連臓器ごとにこの階層構造を明らかにすることが本研究の目的である。本年度は血管炎症による骨格筋の炎症、さらに筋委縮および機能低下への影響を検討した。具体的には、雄マウスにおいて精巣摘出を行ったうえで血管炎症(塩化カルシウム刺激+アンジオテンシンⅡの持続投与)を誘導する炎症誘導モデル(Son BK, Akishita M, et al., J Endocrinology, 2019)を用いて、骨格筋への影響を検討した。その結果、精巣摘出のみの群に比べて、下肢骨格筋(遅筋:ヒラメ筋、速筋:腓腹筋)の重量、筋力(握力)および運動機能(トレッドミル総走行距離)、骨密度ともに有意な低下を認めた。その作用機序として、筋代謝制御因子(筋合成系:myogenin、PGC1a、CyclinD1など、分解系因子:Myostatin、MuRF-1、Atrogin1など)、炎症関連因子(TNFa、MCP-1、iNOS、IL-6、IL-1bなど)の発現をヒラメ筋および腓腹筋で検討したが、血管炎症誘導群での有意な変化は認められなかった。この結果を踏まえて、血管炎症から全身炎症を介した骨格筋への炎症拡大・波及を検討でするのに、早期の炎症惹起の時間軸が存在することが考えられ、経時的なモニタリングを行うでその時間軸および機序を見出すことで、血管炎症から骨格筋炎症・機能低下への階層構造の分子メカニズムを明らかにする。
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