研究課題
今年度は、ヒト型ノックインマウスを用いて、経口摂取という究極の末梢ルートで感染するBSEプリオンの感染を検討した。英国で多発するvCJDはBSEプリオンの感染と想定されながら頭蓋内投与では中々感染が成立しないからである。129Met/Metのヒト型マウスを用いても感染成立は0%(0/12)であり、我々が報告した感受性の高い219Lys/Lysマウスを用いても42.9%(3/7)の成功率であった。しかしながら、今回の末梢ルートでのFDCアッセイでは、129Met/Metの遺伝子型で37.5%(3/8)と感染が成立し、感受性の高い219Lys/Lysの遺伝子型では100%(10/10)の感染率を示した。昨年度の孤発性CJDにおけるM1プリオンの末梢ルートでの感染成立の低さを証明するだけでなく、従来から何故ヒト型マウスへの感染の不成立はプリオンの投与ルートが原因であることを明らかとした。ちなみに、BSEプリオンはFDCアッセイでも129Met/Valの感染は成立せず、129Val/Valも同様に感染は成立しなかった。この2年間で我々が実施した末梢ルート感染は、すべてこれまでの獲得性プリオン病(ヒトや動物から感染したプリオン病)のepidemiologyのデータと相関し、頭蓋内投与では分からなかったことがFDCアッセイをして初めて明らかとなったものであり、末梢ルート感染には末梢から感染させたアッセイ法が必要との我々の提案の正しさを証明している。
1: 当初の計画以上に進展している
我々の開発した、末梢ルート投与によるFDC(濾胞樹状細胞)への感染の成立をアッセイ法とするという方法論は、末梢ルート感染が主なものである、成長ホルモン製剤によるCJDとBSEプリオンの経口摂取であるvCJDが感染する遺伝子型を見事に実証した。この結果は、多くの研究者が最も感度の高い投与ルートは頭蓋内投与であるという既成概念が、末梢感染では当てはまらず、末梢投与によるFDCアッセイ法が優れていることを証明したものである。我々の当初の予定であるFDCアッセイ法の有効性確認は2年間の研究ですでに達成され、予想以上の研究の進捗状況を示している。
我々の研究計画で予定していたプリオンの末梢ルート感染は、すでに2年間の研究機関で達成されているので、今後はフランスの成長ホルモン製剤投与例の解析を加える予定である。というのは、英国の成長ホルモン製剤とフランスの製剤は、それぞれ精製した機関が異なり、全く別物である。英国例はすでに我々の協力のもと解析が行われ、95%V2プリオンの感染であることが報告されている。しかしながら、フランスの症例は発病者の遺伝子型のみ報告されているが、詳細な検討はされておらず、遺伝子型からは129Met/Metの発病者も多く、M1プリオンの感染の割合も多いのではと推測されている。しかし、我々の感染実験からは、M1プリオンの感染成立の可能性は低く、実際の症例をフランスより取り寄せ感染実験を開始している。我々の研究計画の進捗状況が予想外に進展しているので、今年度は従来の感染実験に加えて新しい感染実験の結果を解析することが可能となっている。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 4件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 2件)
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