研究課題
自閉症は、コミュニケーション能力の質的障害および常同・反復的な興味・行動で特徴づけられる非常に発症頻度の高い発達障害であり、その発症メカニズムの解明と治療法の開発が強く求められている。近年、大規模な自閉症の原因遺伝子探索が行われ、クロマチンリモデリング因子CHD8が最も有力な原因遺伝子として同定された。われわれはヒト自閉症患者で報告されたCHD8変異を再現したヘテロ欠損マウスの行動解析を行ったところ、自閉症を特徴付ける行動異常である社会的行動の異常や不安様行動の増加が観察された [Katayama et al., Nature 537: 675-679 (2016)]。自閉症の発症にはニューロンやグリア細胞の機能異常が関与していると考えられるが、自閉症の行動異常の原因となる責任細胞種は明らかになっていない。CHD8ヘテロ欠損マウスの遺伝子発現解析では、オリゴデンドロサイト関連遺伝子の発現が最も顕著に低下していたことから、われわれはオリゴデンドロサイトにおけるCHD8の機能に着目した。CHD8へテロ欠損マウスはミエリン形成の低下やランビエ構造の異常、神経伝導速度の低下を示した。そこでオリゴデンドロサイト特異的CHD8ヘテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、CHD8へテロ欠損マウスで観察された行動異常の一部が再現されることが判明した。さらに安静時機能的MRIによる解析によって、オリゴデンドロサイト特異的CHD8ヘテロ欠損マウスでは脳領域間の機能的結合性が変化しており、その変化は社会的行動と相関することが明らかになった。これらの結果から、CHD8変異によるオリゴデンドロサイトの機能異常が脳内の神経ネットワークに影響を与えており、自閉症発症の一因を担っている可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
CHD8の欠損によりオリゴデンドロサイトの機能が障害することが判明したため、オリゴデンドロサイト特異的CHD8ヘテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、自閉症様行動の一部が再現されることが判明した。さらに安静時機能的MRIによる解析では脳領域間の機能的結合性が変化しており、その変化は社会的行動と相関することが明らかになった。これらの知見は当初の研究目的に適っており、順調に達成されつつあると考えられる。
オリゴデンドロサイト特異的にCHD8を発現誘導できるトランスジェニックマウスを作製し、自閉症モデルマウスと交配することによって、自閉症様の行動異常が改善されるかどうかを検討する。またCre-loxPシステムやウイルスベクターを用いて、CHD8へテロ欠損マウスにおいて異常がみられた脳領域、細胞種特異的に感光性タンパク質を発現させ、光刺激を行うことでCHD8へテロ欠損マウスの特定の神経活動を自由行動下に制御することによって、自閉症様の行動異常が改善されるかどうかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Hum. Mol. Genet.
巻: XX ページ: in press
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J. Exp. Med.
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10.1084/jem.20180900
http://ana1.w3.kanazawa-u.ac.jp/