研究課題/領域番号 |
18H02750
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
内田 周作 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10403669)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ストレス / うつ病 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
ストレスが個体の脳機能低下を引き起こす性差・個体差構築の分子神経メカニズム解明は、うつ病の予防・治療法の確立につながることが期待される。本研究は、仮説「うつ病発症に深く関わるストレス脆弱性の性差・個体差構築にはエピジェネティックな遺伝子発現制御異常に起因する神経ネットワーク変容が関わる」を検証し、その分子神経基盤の解明を目的としている。この目的達成のため、2018年度は以下の実験を行った。 実験1. ストレス脆弱性の個体差構築に関わる神経ネットワークの同定 我々はこれまでに、慢性ストレス負荷マウスでは、ストレス耐性群とレジリエンス群における腹側海馬、内側前頭前野、側坐核の神経活動変容を示唆する結果を得た。そこで、薬理遺伝学的手法を用いて神経細胞の活動を操作したマウスのストレス対処行動を検討した。その結果、内側前頭前野の特定の細胞を活性化させるとストレスレジリエンスを獲得することを見出した。 実験2. ストレス脆弱性の個体差構築に関わるエピジェネティクス制御機構の解明 予備的検討から、内側前頭前野領域におけるヒストンリジン脱メチル化酵素KDM5Cを介したエピジェネティック制御がストレス適応の性差・個体差構築に関与している可能性が考えられる。そこで、内側前頭前野特異的にKDM5Cをノックアウト(ゲノム編集技術)あるいは過剰発現したマウスを作製し、KDM5Cのストレス対処行動に対する役割を検討した。その結果、内側前野領域特異的KDM5C欠損マウスはストレス耐性を、逆にKDM5C過剰発現マウスはストレスレジリエンスを獲得していた。さらに、ストレス感受性が高いほど、KDM5C発現量が亢進していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子基盤解析と神経基盤解析の両アプローチにおいて、当初計画した実験を遂行することができた。また、KDM5C発現とストレス対処行動との関連を明らかにできた。さらにストレス対処行動に関わる候補神経ネットワークを抽出することができた。これらの成果は当該年度の目標であり、研究は予定通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は以下の実験を計画している。 実験1. KDM5Cを介した新規分子経路を同定する。KDM5C遺伝子操作マウスを用いて、RNA-seqとChIP-seq解析によりKDM5Cの標的遺伝子群を同定する。得られた候補因子について、ストレス脆弱性の性差・個体差構築との因果関係を過剰発現マウス・ノックアウト(ノックダウン)マウスにより証明する。 実験2. 分子×神経回路の融合戦略によるストレス脆弱性形成機序を解明する。「腹側海馬→内側前頭前野→側坐核」回路におけるKDM5Cのストレス適応機構に対する役割を解析する。腹側海馬からの入力を受けて側坐核へ投射している内側前頭前野の神経細胞特異的にKDM5Cの発現をノックアウトあるいは過剰発現させたマウスを作製する。このマウスのストレス対処行動を解析する。
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