研究実績の概要 |
一酸化窒素(NO)は、脳血管拡張因子として発見されたが、神経系での糖代謝にも関わるほか直接に神経伝達物質としても機能し、遺伝子研究から統合失調症や認知症との関連も報告されている重要な物質である。NOは、生体内でメチルアルギニンにより合成酵素が競合阻害され調節されているが、メチルアルギニンは、体内では2つの酵素、アラニン:グリオキシル酸アミノ基転移酵素2(AGXT2)とジメチルアルギニンジメチルアミノ水酸化酵素(DDAH)によってしか分解されない。今回、精神神経疾患の発症に、これら2つの酵素が関連することを検討した。まず、日本人の約3割のAGXT2活性の欠損に関連するAGXT2遺伝子の4つの機能性多型(rs37370, rs37369, rs180749, rs16899974, AGXT2-CAAAハプロタイプ)およびDAAH1遺伝子の5多型(プロモーター4塩基ins/del多型、rs307894, rs669173, rs997251, rs13373844)を用いて、愛媛大学医学部附属病院精神科で行っている伊予市中山町の65歳以上の全住民を対象とした集団ベース研究の参加者のうち750名(平均年齢77.0 ± 7.6 歳)を対象に解析した。その結果、血圧 (収縮期血圧、p=0.034:拡張期血圧、p=0.025) および血糖値 (p=0.021)とAGXT2遺伝子のCAAAハプロタイプが有意に相関することを確認した。一方、DDAH1とは関連しなかった。以上から、高血圧や糖尿病とAGXT2を介してNOが、脳血管性認知症に関係する可能性を示すことが出来た。ただ、直接認知症などの精神障害とNOが関係することは、動物実験、集団ベース研究からも確認できておらず、今後研究を更にすすめることが必要である。
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