本研究はアルツハイマー病病理所見を持つ老年者の30-50%に認められる「病理変化に比べ認知症状の緩徐な症例」(認知予備能の高い症例)を突破口に、認知機能などヒトの局所神経機能を直接反映したバイオマーカーとなる無侵襲な検査法を、化学交換飽和移動磁気共鳴イメージング(CEST-MRI)を用いて開発し、神経変性疾患に広く展開することを目的とする。 アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患においては病因の中核となる病理所見と病態(アルツハイマー病における認知症状)は必ずしも相関せず、機能低下と最も相関するのは局所のシナプス密度である。しかし、現状では局所シナプス密度を反映する無侵襲なイメージング手法は開発されていない。本研究では局所シナプス密度を無侵襲かつ高空間分解能で評価するMRI測定法を開発し、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の客観的機能評価法を確立する。 現在までに、前臨床機とアルツハイマー病モデルマウスを用いた疾患研究を終え、2つの論文を発表するとともに、ヒト用7tを用いた正常ヒト3D-gluCEST撮像法を開発し、ヒト海馬のシナプス密度画像を撮像することに成功している。さらに現在、全脳のシナプス密度画像を開発中であり、既に正常ヒトにおける3D-gluCEST画像の撮像に成功している。 今後はヒト疾患への応用を目的として、動物実験で得られた測定手法をヒトに応用するための安全性試験および測定条件最適化を目的とした基礎実験を継続しつつ正常成人シナプス密度画像撮像の最適化を行う。正常成人ボランティアおよび認知症・脳梗塞症例の協力の元最終的なデータ取得を進める。
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