研究実績の概要 |
抗体を利用した放射免疫療法(Radioimmunotherapy, RIT)は,血液癌での臨床での有用性は示されているが,固形癌での有用性は,動物モデルのみで,臨床では未だ示されていない。この大きな原因のひとつは,血液癌と違い,固形癌では間質が非常に多く,薬剤到達を阻む間質バリアが存在するが,これを克服するRIT戦略が描けていないからである。そこで,固形癌に有効な新しいRIT戦略の確立を目的として研究を実施した。これまでに,癌間質を標的とする抗体をIn-111標識し,その性能評価を5種類の固形癌モデル腫瘍を形成させたマウスで実施した。SPECT/CTイメージングおよび体内動態試験を実施した結果,癌間質が豊富な固形癌モデルに高集積することが明らかとなった。治療用放射性核種に変えて抗体を投与した場合,腫瘍に40Gyを照射できると推定された。治療実験も実施し,抗体をβ線放出核種Y-90で標識し,間質が豊富な膵癌モデルに投与して治療効果を評価した。統計的有意に腫瘍増殖を抑制することを明らかにした。腫瘍縮小効果も見られ,これまでのち療法よりも効果が高いことが明らかとなった。膵癌治療法として有望であることが示された。さらなる治療効果を高めるために,リリース型ADCの開発に取り組んだ。コントロールとして,同じFcを有する非特異的抗体を新たに開発し,比較したところ,有意な治療効果があることが明らかとなった。従来とは異なるリンカーを使用することで治療効果を高めることができることを実証した。病理解析を進めている。さらに,間質が豊富ながん組織内での放射性薬剤の浸透を高めるために,リリース型RIリンカーの開発を進めた。リンカーの合成に成功し,標識の検討を進めている。リリース型ADCと組わせることで,さらに高い治療効果が期待される。
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