研究課題/領域番号 |
18H02777
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
江川 潔 北海道大学, 医学研究院, 助教 (40450829)
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研究分担者 |
岡野 栄之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60160694)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アンジェルマン症候群 / GABA作動性抑制 / 遺伝性てんかん |
研究実績の概要 |
1. アンジェルマン症候群モデル(AS)マウスの脳領域毎に異なるGABA持続抑制機能不全 2018年度までに、ASマウスにおいて、皮質・海馬のGABA持続抑制が減少しているのに対し、視床皮質投射ニューロンでは減弱がみられない、という領域特異的なGABA持続抑制機能不全が存在することを明らかにした。2019年度は、この領域間でのGABA持続抑制不均等がアンジェルマン症候群におけるてんかん・認知機能障害など脳機能障害の原因となっている可能性を検証する目的に、薬理実験をおこなった。皮質・海馬優位に発現しGABA持続抑制を惹起するGABA受容体α5サブユニットの陽性変力作用(MP-III-022)を投与すると、ASマウスのてんかん発作閾値は上昇し、逆に視床優位に発現するδサブユニットの陽性変力薬(Gaboxadol)にて逆に低下した。これらの結果から、脳領域間でのGABA持続抑制の不均等がASのてんかんに重要な役割を果たすことが示唆された。
2.AS発症遺伝形式によるGABA持続抑制減弱の多様性 2018年度までにAS患者由来iPS細胞より分化誘導した神経細胞は、興奮性ニューロン・抑制性ニューロンとも発火に異常がないことを明らかにした。今年度、さらに解析をすすめ、genotypeによって神経細胞発火能に有意な差が存在するかを検証した。結果として、欠失例ではコントール・非欠失例とくらべて介在ニューロンの活動電位振幅が有意に大きく、静止膜電位は有意に高いことが明らかとなった。この結果は、よりGABA持続抑制の強い減弱があると考えられる欠失例で、シナプス性GABA抑制が相補的に亢進している可能性を示唆する。また、実際の患者から体性感覚誘発反応の記録を行い、遺伝型による反応多様性を明らかにし、GABA機能障害の関与の可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ASマウスのけいれん閾値を評価する実験系として、フロセニル吸入けいれん誘発モデルを確立し、生後6か月以上の中年マウスではASでけいれん閾値が下がっていることを明らかにし論文に発表した。この系をもちいておこなった薬理実験で、脳領域間のGABA持続抑制不均等がASの症状の一部の原因になる、という作業仮説を支持する所見が得られ、最終的な目標である、現実的な治療介入がみえてきている。 患者由来iPS細胞をもちいた研究では、GABA持続抑制の評価は困難であったが、代わりに抑制介在ニューロンの発火を評価することで、シナプス性抑制が重度の表現型を示す欠失例患者でむしろ亢進している、という予想外の結果を得ることができた。実際の患者から神経生理学的検討を行い、これを裏付ける結果が得らえれ、論文に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
ASモデルマウスをもちいた、MP-III-022,Gaboxadol投与により症状変化の検討を、脳波異常、認知記憶、不安症などに広げることで、今回見出した脳領域間のGABA持続抑制の不均等がどのような症状の発現に寄与するかを検討する。iPS細胞をもちいた検討については、抑制ニューロンおよび興奮性ニューロンを共培養することで、興奮性ニューロンへの抑制性シナプス伝達を評価し、AS患者における神経シナプス回路がどのように変化しているかを検証する。
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