2021年度までに、ASマウスにおいて、皮質・海馬のGABA持続抑制が減少しているのに対し、視床皮質投射ニューロンでは減弱がみられない、という領域特異的なGABA持続抑制機能不全が存在することを明らかにした。今回その機序として皮質、海馬、視床のGABAトランスポーター1発現の差異を免疫生化学的手法をもちいて検証した。GABAトランスポーター1はGABAを再取り込みすることでシナプス外GABA量を調整し、GABA持続抑制を規定している。ASマウスでの皮質・海馬ではGABAトランスポーター1の発現が亢進していると予想したが、ウエスタンブロット法にて検討したところ明確な差を確認できなかった。今後免疫染色的手法をもちいて検証する予定である。 GABA作動性抑制はクロライドの流入出によってなされるため細胞内クロライド濃度も抑制を規定する重要な因子である。細胞内クロライド濃度を規定するカチオンクロライド共輸送体、NKCC1、KCC2の発現をウエスタンブロット法にて検討し、ASマウスではKCC2が減少、NKCC1が過剰となっていることを明らかにした。一方でグラミシジン穿孔パッチクランプによる細胞内クロライド濃度の評価では有意な差をみとめなかった。海馬神経細胞におけるGABA持続抑制の減少が、カチオンクロライド共輸送体発現破綻による細胞内クロライド濃度上昇を補填している可能性が考えられた。NKCC1の阻害剤ブメタニドを慢性的に腹腔内投与するとASマウスの認知機能が改善し、てんかん発作の閾値も減少した。細胞内クロライド濃度が平均としては保たれていても、カチオンクロライド共輸送体の障害は脳機能障害につながることが示唆された。GABA作動性抑制の機能不全が関与するあらたなメカニズムとして論文に報告した。
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