研究課題/領域番号 |
18H02781
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
伊東 恭子 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80243301)
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研究分担者 |
藤本 崇宏 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10446114)
伏木 信次 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (80150572)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胎児医学 / 脳形成異常 / 神経幹・前駆細胞 / 脳オルガノイド / 治療標的分子 |
研究実績の概要 |
1. NSPCsによるミニブレイン作製 我々が胎児前脳から樹立したヒト疾患由来神経幹・前駆細胞(以後NSPCs)をin vitro三次元(3D)増殖・分化培養系に供することで、胎児期脳発生過程の一部を模倣する細胞モデル・疾患モデルである脳オルガノイド(ミニブレイン)の作製を試みた。NSPCsのうち、正常胎児由来NSPCs(n=2)、FGFR3遺伝子異常を有するタナトフォリック骨異形成症(TD)由来NSPCs(n=3)を用いて、ミニブレインを形成した。増殖メディウムで単一ニューロスフェアを形成、次にオリジナルメディウム(1)で7日間、オリジナルメディウム(2)で、ガス交換可能な遠沈管型振盪培養を用いた特殊微小環境下で14-28日間培養した。FGFR3遺伝子異常症例では、ミニブレイン表面に瘤状隆起が多数形成され、in vivoの脳形成異常に類似した表現型が再現された。組織学的に、瘤状隆起は分裂終了直後の未熟な神経細胞胞巣よりなり、ミニブレイン深部にGFAP(+), ビメンチン(+)の放射状グリア胞巣が形成され、ラミニン、テネイシン等の細胞外基質の沈着がみとめられた。In vitroの系で、in vivoの脳に類似したモデルが形成されたと判断した。今後、神経細胞・グリア細胞への分化、遊走、層形成、神経突起伸長、シナプス形成などを時空間的に解析する。 2. NSPCsの亜株の樹立 遺伝背景に関連した個体差やNSPCs樹立時期の違いなどが実験結果に影響することを懸念し、正常由来NSPCsにエピソーマルベクターを利用して、Human C-MYC、野生型FGFR3遺伝子、FGFR3遺伝子点変異体を安定発現する亜株の樹立に着手した。次年度以降、これら亜株を用いて上述の3D増殖・分化培養系でのミニブレインの形態変化の再現性を確認し、異常部位の細胞組成・細胞特性を細胞レベル・分子レベルで解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト由来NSPCsを材料として胎児期脳形成過程の一部をin vitroで模倣するミニブレインの樹立には、培地組成や培養容器・装置などの培養条件の指摘化が最も重要である。今年度では、正常NSPCsと遺伝子異常を有するNSPCsとの比較で、構造や細胞組成に違いが生じるかどうかを一つの指標にして試行錯誤してきた。装置の容量や培養コストの問題に加え、1回の試行に2ヶ月を要するため生産性は低いが、少なからず再現性のある現象は捉えられている。ヒト由来NSPCsの問題点である患者間の個体差やサンプル数の制限を解消すべく、遺伝子導入を施した亜株の作製に着手しており、実験的に比較可能な群の取得や責任遺伝子産物の蛋白動態・シグナリング解析を可能にする。
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今後の研究の推進方策 |
1. NSPCsの2D・3Dでの機能解析:脳形成異常責任遺伝子を導入したNSPCs亜株群を早期に樹立し、3D培養系での検証実験に供することで、遺伝子型と表現型の関連を明らかにする。関連が認められた表現型を対象に細胞レベル・分子レベルでの検討を加えることで、表現型の基盤となる分子機序・シグナル伝達経路を顕在化させる。入手可能な関連経路阻害剤・賦活化剤や分子標的薬が存在する場合は、表現型に及ぼす効果を3D培養系にて検証する。我々が樹立しつつあるNSPCs亜株群にはタグ付加された責任遺伝子が導入されているため、これまで困難であった責任遺伝子産物の細胞内動態解析が可能になる。3D培養と2D培養を併用することで研究を推進させる。 2. NSPCsの一次繊毛の制御機構:TDの骨形成異常に軟骨芽細胞の一次繊毛異常が関与するという報告がなされている。そこで、Human C-MYC、野生型FGFR3遺伝子あるいはFGFR3遺伝子点変異体を安定発現する亜株細胞を用いて、一次繊毛とFGFシグナルパスウェイの相違を形態学的、生化学的、分子生物学的に比較検討する。FGFシグナル伝達阻害剤(NVP-BGJ398)等をFGFR3遺伝子点変異体導入NSPCsに作用させることで、一次繊毛や細胞の表現系が正常化するかを検討する。以上の結果を基にして、ヒト脳に発生する大脳形成異常の分子メカニズムに迫る。
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