研究課題/領域番号 |
18H02783
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
大橋 十也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (60160595)
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研究分担者 |
渡部 文子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (00334277)
嶋田 洋太 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20560824)
樋口 孝 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (30595327)
福田 隆浩 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60228913)
小林 博司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90266619)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GM1ガングリオシドーシス / 造血幹細胞 / レンチウイルスベクター / 遺伝子治療 |
研究実績の概要 |
GM1ガングリオシドーシスはライソゾーム蓄積症(LSD)の1つであり、βガラクトシダーゼ(βgal)の遺伝子異常のため、βGalの活性が低下しGM1ガングリオシドの蓄積により中枢神経症状・骨症状を呈する。現在、GM1への効果のある治療法は存在しない。本研究では、造血幹細胞を標的とした遺伝子治療がGM1中枢神経症状に有効かどうかを明らかにし、加えて上記遺伝子治療の問題をも克服する新規の遺伝子治療法の開発を目指す。 本年度はPGKプロモーター、ウイルス由来のプロモーターであるMNDプロモーターでβgalをドライブするレンチウイルスベクターを構築した。PGKプロモーター搭載のレンチウイルスベクターで造血幹細胞を標的とした遺伝子治療をモデルマウスで行い、施行20週後の各種臓器のβgal活性、ベクターコピー数を検討した。βGal活性は肝臓で未治療群1.8±0.6nmol/h/mg治療群19.6±11.8nmol/h/mg p=0.004、脾臓で未治療群3.2±0.4nmol/h/mg治療群414±269nmol/h/mg p=0.0038、脳で未治療群1.7±0.3nmol/h/mg治療群1.9±0.3mol/h/mg p=0.2であり、末梢の臓器では有意にβGal酵素活性が上昇していたが、脳では有意なβGal酵素活性の上昇を認めなかった。ベクターコピー数では脾臓で治療群0.236±0.157copy/cell(未治療群0.00009±0.00001copy/cell p=0.04)であり脳で0.0019±0.0015copy/cell(未治療群0.00027±0.00021copy/cell p=0.12)であり酵素活性と一致する結果であった。以上よりPGKプロモーターより強力なプロモーター、またより効率的に造血幹細胞へ遺伝子を導入する方法が必要と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は2種類のウイルスベクターの構築(βGal遺伝子をPGKプロモーターもしくはウイルスプロモーターであるMNDプロモーターでドライブするレンチウイルスベクター)並びにPGKプロモーターを使用したレンチウイルスベクターにてモデルマウスで造血幹細胞を標的とした遺伝子治療の施行ができ、MNDプロモーターを使用したベクターに関しても、動物実験が進んでいる。また蓄積物質の測定方法、組織内炎症性サイトカインの測定法も、準備実験では概ね順調に確立に向かっている。以上より、概ね予定通りに研究が進んでいると評価した。ただ今回のPGKプロモーターのベクターを使用した結果では末梢臓器では有意にβGal酵素活性の上昇が認められたが、脳でのβGal酵素活性の有意な上昇は認められなかった。現在実験中のMNDプロモーターを使用したベクターはより強力にβGalを発現させるため、各臓器、特に脳での活性の有意な上昇が期待出来ると予測しているが、さらなるGM1に対する遺伝子治療法の改善も必要である。
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今後の研究の推進方策 |
PGKプロモーターより強力なMNDプロモーターでβgal遺伝子をドライブするレンチウイルスベクターを用いて、モデルマウスで造血幹細胞を標的とした遺伝子治療を行う。これはPGKプロモーターに比して大量のβgalが発現出来るので脳での活性上昇が期待できる。その他の改善策としては2点ある。1点目はまず造血幹細胞への遺伝子導入効率を上げる事である。これは現在、prostaglandin E2やCyclosporine Hの使用を予定している。2点目としては末梢臓器で発現した酵素の脳への移行を促進する方策の検討である。これは現在トランスフェリン受容体抗体と酵素の融合体を作る事を考えている。同じLSDのムコ多糖症II型で酵素とトランスフェリン受容体抗体を融合させると血液脳関門を通過することがマウス、ヒトで証明されている。これを応用しβGal遺伝子とトランスフェリン受容体抗体遺伝子の融合体発現するウイルスベクターの作成を行なう。まずこの融合蛋白を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを作成し、肝臓を標的に遺伝子治療を行い、これが上手く行くようであれば、融合蛋白を発現するレンチウイルスベクターを作成し造血幹細胞を標的とした遺伝治療を行う。同時に以下の通りの治療効果の評価方法の確立を行なう。(1)GM1ガングリオシドのLC/MS/MSによる測定法の確立。 (2)行動学的評価法の確立。オープンフィールド試験、恐怖条件付け試験、ロタロッド試験などを行ない、正常マウスとモデルマウスで差が顕著なものを評価試験として採用する。(3)脳内サイトカイン測定法の確立。 (4)脳の病理学的検討を行なうために様々染色を行なう。例えばβgalの活性染色・免疫染色、蓄積しているGM1の免疫染色、アストログリオーシスを評価するためのGFAPの免疫染色などである。
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