研究課題/領域番号 |
18H02788
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
綾部 時芳 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (90301019)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 炎症性腸疾患 / Paneth細胞 / 自然免疫 / 腸内細菌 / 腸内環境 |
研究実績の概要 |
Paneth細胞が分泌するα-defensinが腸内細菌叢の組成を制御することに着目し、B6マウスより得た単離小腸陰窩をMatrigelで包埋した培養enteroidとmicroinjection法を用いて、共焦点レーザー顕微鏡time-lapse観察によりPaneth細胞の顆粒分泌応答を可視化し、定量法を確立した。この系を用いて、神経伝達因子およびリポポリサッカライド刺激の加わる方向(基底膜側または内腔側)によるPaneth細胞の顆粒分泌応答の選択性を明らかにした。また、一度分泌したPaneth細胞の顆粒が再形成され、さらに再形成された顆粒は第二の刺激にも分泌応答できることを示し、腸管自然免疫、共生および再生におけるPaneth細胞の重要性を明らかにした。これにより、Paneth細胞が様々な腸内環境を認識してダイナミックに機能している可能性を示した。 腸内環境を構成しているLactobacillus等の常在菌および非常在菌に対するPaneth細胞の顆粒分泌応答を定量化し、分泌されたα-defensinの殺菌選択性に加えて、Paneth細胞が個々の腸内細菌を識別して分泌応答・非応答を選択することで、腸内細菌叢を制御することを示した。Paneth細胞の新たな腸内環境の恒常性維持機構を見出した。 クローン病モデルSAMP1/YitFcのα-defensinについて、電気泳動法を駆使した高次構造評価およびsandwich ELISAでの定量により、病態進展に伴う質と量の両面での異常を見出した。さらに、腸内細菌叢の破綻との相関が示唆されたことから、Paneth細胞α-defensinによる腸内環境統御という視点に立った炎症性腸疾患の病態解明と治療戦略策定の重要性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究計画すべてで進展が認められた。Paneth細胞の顆粒分泌応答評価システムを確立し、これまでできなかった様々な機能評価を行うことで、2000年最初にPaneth細胞が細菌刺激等によってα-defensinを分泌することが明らかになって以来ディベートが続いていたPaneth細胞の顆粒分泌応答性に関する大きな課題に回答を与えて、決着を付けることができた。これによって、腸内環境の恒常性維持におけるPaneth細胞の重要性を示し、さらに全く新しい機能の可能性を見出したことから当初の計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の計画を完遂したことから、今後は最先端の精密画像解析、独自に開発してきた生化学的および免疫学的解析を組合せて、Paneth細胞分泌応答様式を含めた分泌メカニズムを明らかにする予定である。また、細胞内Ca++動態を検証し、Paneth細胞内のシグナル伝達経路を詳細に解析する。さらに、疾患モデルおよびインフォームドコンセントを得た炎症性腸疾患患者の臨床検体を用いて、Paneth 細胞形態、α-defensinの量と質、腸内細菌叢の組成から炎症性腸疾患の病因・病態解明に迫り、治療戦略を多角的に評価する。
|