研究課題
研究代表者らは、1. ゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞から肝前駆細胞を分化誘導し、病態を再現しうる新たな肝疾患病態解析モデルを構築すること、2. ヒトiPS細胞由来肝間葉系細胞(星細胞)の分化誘導法を確立し、標的遺伝子の修飾により肝星細胞としての誘導効率化を目指すこと、3. ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞と同・間葉系細胞との新規共培養系確立により、肝組織を一部模倣しうる培養体<iPS-derived Liver Organoid>を作成し、治療標的分子を抽出すること、の3点を目的とした研究を行い、今年度の成果として下記を得た。ゲノム編集により先天性肝線維症の原因遺伝子であるPKHD1を欠損させたヒトiPS細胞株を樹立した。これを胆管細胞に分化誘導して解析することにより、この疾患モデル胆管細胞は、IL-8を多量に産生していること、分泌されたIL-8によって胆管細胞自体の細胞増殖が異常に促進されるとともに、CTGFの産生が亢進することを明らかにした。さらにこれらの変化は、遺伝子の異常によって、胆管細胞に存在する一次繊毛が変質することで、細胞内MAPキナーゼ経路が異常に活性化することに起因することを示した(J Hepatol, 2019 in press)。また、ヒトiPS細胞から、成長因子と低分子化合物を組み合わせて培養することで、ヒトiPS由来肝星細胞を誘導を可能とする系を開発した。誘導したiPS由来肝星細胞は、生体の肝星細胞とよく似た性質を示し、炎症刺激を加えることで肝硬変の状態をつくりだす筋線維芽細胞へと変化した。LHX2遺伝子を強く発現させたヒトiPS由来肝星細胞は、肝前駆細胞のアルブミン発現を100倍以上に上昇させるなど肝前駆細胞の成熟化をさらに強く促進した(Sci Rep, 2019)。
1: 当初の計画以上に進展している
まず、「ゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞から肝前駆細胞を分化誘導し、病態を再現しうる新たな肝疾患病態解析モデルを構築する」ことに関しては、極めて順調に研究を進行させることができた。先天性肝線維症モデルiPS細胞の研究結果は、胆管細胞が産生するIL-8とCTGFが、先天性肝線維症でみられる胆管形成の異常と進行性の肝線維化に重要な役割を果たすことが解明された。この病気は小児期に肝移植が必要となることもある難治性の病気であり、新規治療法の開発にむけた病態解明が急務とされていた。本研究で解明したIL-8とCTGFを抑制する治療を開発することが、先天性肝線維症の治療に有用である可能性を示しており、現在は肝移植以外には治療法がない難治性疾患の治療開発への応用が期待される結果だった。本研究の成果は、国際的な評価の高いヨーロッパ肝臓学会機関誌 Journal of Hepatology(Impact Factor 15.040)に採択され、その研究成果は国内の新聞でも報道された。次に、「ヒトiPS細胞由来肝間葉系細胞(星細胞)の分化誘導法を確立し、標的遺伝子の修飾により肝星細胞としての誘導効率化を目指す」ことに関しても極めて順調に研究を進行させることができた。ヒトiPS由来肝星細胞には、未熟なiPS由来肝前駆細胞を成熟させる機能があること、その機能はLHX2発現を調節するとさらに促進されることを解明した。この結果は、ヒトiPS由来肝星細胞を利用するとヒトiPS由来肝細胞の未熟性を克服できる可能性を示し、将来的な肝再生医療への応用が期待される。同時に、今回の技術を応用すると肝硬変を治療するための画期的創薬研究への基盤技術となることが期待され、こちらの研究成果についても、論文公表時に国内の新聞で報道された。以上のように計画以上に研究は進展していると考えられる。
今後の研究は、予定通り 1. ゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞から肝前駆細胞を分化誘導し、病態を再現しうる新たな肝疾患病態解析モデルを構築する、2. ヒトiPS細胞由来肝間葉系細胞(星細胞)の分化誘導法を確立し、標的遺伝子の修飾により肝星細胞としての誘導効率化を目指す、の両項目に関して、さらなる研究の発展を図ってゆく。今後は、これまでに示した分子以外にも研究の対象を広げることで、新たな学術的知見を得るとともに、創薬対象となる分子のスクリーニングも進めてゆく予定である。並行して、「3. ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞と同・間葉系細胞との新規共培養系確立により、肝組織を一部模倣しうる培養体<iPS-derived Liver Organoid>を作成し、治療標的分子を抽出する」に関しても、さらに研究を進めてゆく。ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞あるいは成熟肝細胞とヒトiPS細胞由来肝間葉系細胞を共培養し、肝組織を模倣しうる培養体の構築を進める。初期は2種類の細胞を用いた培養とするが、前記で誘導した胆管細胞系譜の細胞、既に誘導可能な内皮細胞も用いて、多細胞種を用いたAll-iPS共培養系の構築を計画している。その際には、平面培養系で新たな細胞種を用いること、全てiPS由来細胞を用いること、足場となる細胞外マトリックスには新規技術を導入した培養系を用いることでbreakthroughを試みる。作成した<iPS-derived Liver Organoid>の機能判定として,当初はin vitroでのアルブミン合成能や尿素合成能などを指標として機能評価を進め、その後にマウスへの移植系でも評価を進めてゆく予定である。
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