研究課題/領域番号 |
18H02797
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
狩野 光伸 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 教授 (80447383)
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研究分担者 |
正宗 淳 東北大学, 医学系研究科, 教授 (90312579)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 三次元培養法 / 膵がん / 線維化 / 細胞外基質 / 線維芽細胞 / 腫瘍微小環境 |
研究実績の概要 |
膵がんは難治である。薬剤治療に対する抵抗性が高く、予後不良である。研究代表者はその原因を、腫瘍細胞群を囲む顕著な線維組織に求めてきた。線維化がどのように治療抵抗性に寄与していて、どのように標的化すれば治療成績を改善できるのか、詳細はまだ明らかでない。その一因には、線維化を再現する実験モデルの欠如がある。代表者らが最近確立した、ヒト膵がん線維組織に由来する膵臓星状細胞(PSC)を3D(立体)培養する方法を用いると、従来の平面培養では不可能だった線維成分・細胞外基質(ECM)の可視化にin vitroで成功した。平成30年度は、ヒト膵がん由来PSCは、正常線維芽細胞においては見られない異常なECM改築を、TGF-β/ROCK/MMP経路ならびに糖タンパク質SPARC依存的な機序により示すことを明らかにし、報告した(Biomaterials, 2019)。同様の3D線維化組織中に、さらに血管構造を形成させたのちに腫瘍細胞を加え、転移の解析に用いうることも示した(Biomaterials, 2018)。以上のように、本研究において採用している立体培養法では、構成細胞を任意に選択し、自在に混合しうる。令和二年度には、これらの方法を基盤に、腫瘍細胞と線維芽細胞を種々の比率で混合・播種し、線維化組織を伴う3D腫瘍微小環境モデルの構築に成功した。本モデルは臨床検体において認められる線維化の割合の多様性を再現することができる。同モデルを用い、腫瘍細胞との相互作用を通じ、線維芽細胞が活性化する機序の解析を行い、転写因子SMAD2/3および転写調節因子YAPの協調的な作用が必須であることを見出し、報告した(Biomaterials, 2020)。さらに、当初予定通り、コラーゲンやフィブロネクチン等のECM因子の構築異常が再現されていることを見出し、その機序の解析を行い、ECM構築異常に関わり、治療標的となりうるシグナル経路の同定に至った(投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では令和二年度には「立体共培養系におけるECM可視化」を実現し、その機序の解析を進めることを計画していた。これらを既に令和二年度において実現済みであり、実際、複数の学会発表のみならず論文報告(Biomaterials 2020)に至っている。さらには、当初計画していた以上の展開も見られつつある。つまり、本研究の目的であったECM構築異常に関わるシグナル経路を既に見出しており、これを標的化した場合の治療応答や薬物送達への影響の解析が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度には、分担者・正宗が取得した複数の膵がん患者由来PSCを、複数の膵がん細胞株と多様な組合せで安定的に線維化を伴う3D膵がん微小環境モデルの作製を行うことができる状況を実現し、コラーゲンやフィブロネクチン等のECM構築異常の再現と可視化に成功した(Biomaterials 2020)。最終年度である令和三年度には、同モデルの解析を精力的に進め、令和二年度中に既に見出されたECM構築異常に関わるシグナル経路の解析を進める。すなわち、各種小分子阻害剤投与によりシグナル経路の関与の実証および標的化のための方策を探索していくとともに、細胞種毎のsiRNA処理により薬理学的阻害実験の特異性の確認を進める。さらに令和二年度に着手した、これらシグナル経路標的化時の治療応答や薬物送達への影響の解析を深化させ、ECM構築異常の標的化を介した膵がん治療戦略の開発を進める。
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