研究課題/領域番号 |
18H02798
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐々木 裕 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70235282)
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研究分担者 |
渡邊 丈久 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (20634843)
直江 秀昭 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (30599246)
荒木 令江 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (80253722)
長岡 克弥 熊本大学, 医学部附属病院, 医員 (00759524)
藤元 治朗 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (90199373)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 原発性肝癌 / 代謝リプログラミング / メタボローム / マルチオミクス解析 / 治療抵抗性 |
研究実績の概要 |
原発性肝癌(以下、肝癌)の増殖進展や治療抵抗性獲得には、十分なエネルギーと蛋白質、脂質、核酸など化合物の確保が必須であるため、癌細胞では外的環境に適応しつつ、代謝リプログラミングが行われることが想定されている。今回、細胞環境がどのような代謝リプログラミングをもたらし肝癌細胞増殖進展や治療抵抗性獲得に寄与するかを、マルチオミクス解析にて検討した。 具体的には、切除不能肝癌に対する標準療法の1つであるマルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ耐性のヒト肝癌細胞株を樹立し、トランクリプトーム解析にて脂質代謝、リポタンパク質代謝の遺伝子セットの有意な変動を見出した。さらにバイオインフォマティクス手法の1つであるGene Set Enrichment Analysis (GSEA)を用いて、細胞内代謝物のメタボローム解析の結果と統合することで、メチオニン回路とリン脂質生合成の鍵遺伝子の発現上昇ならびに関連代謝物サルコシンの増加を明らかにした。サルコシンは前立腺癌の進行に関与するという報告もあり(Sreekumar A., Nature, 2009)、肝癌細胞の治療抵抗性機構の一翼を担う可能性が示された。 一方、ソラフェニブの有する血管新生抑制効果は癌組織に低酸素を惹起することから、三次元培養により作成したヒト肝癌細胞スフェロイドを低酸素下で培養すると、糖代謝や脂質代謝に関与するヒストン脱メチル化酵素LSD1ならびにLSD2のmRNA発現増加を認めた。一方、ソラフェニブ耐性肝癌細胞株では低酸素負荷によるLSD1/LSD2の発現上昇を認めず、耐性獲得に伴い代謝リプログラミングが変化することが示唆された。 現在、ソラフェニブ投与によるリン脂質代謝変化の詳細な分析を行う共に、肝癌細胞株、肝癌マウスモデルを用いてサルコシンによる肝癌治療抵抗性機序の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は細胞環境が誘導する代謝リプログラミングの解析に焦点を当て、マルチオミクス解析を行うことで、肝癌が治療抵抗性を獲得する際に生じるダイナミックな遺伝子発現変化とそれに伴う細胞内代謝物の変化を捉え、複数の候補分子ならびに候補代謝物を見いだした。今後、候補分子ならびに候補代謝物の動態と、これらの変化による肝発癌増殖進展機序との関連、ならびに治療耐性化機序の詳細を、肝癌マウスモデルならびに臨床サンプルを用いて詰めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
肝発癌増殖進展、治療抵抗性の獲得のために、細胞が外的環境に適応しつつ代謝リプログラミングを行うというダイナミックな生物学的特性を明らかにするため、当初の計画に沿って各々の責任分子群ならびに代謝動態の変化を同定する。平成30年度の研究経過から、肝癌治療抵抗性獲得においてリン脂質代謝など特定の代謝経路への絞り込みができている。そのためこれらの変化が引き起こす肝発癌増殖進展機序、分子標的治療に対する耐性化機序における役割を多面的に解析し、最終的には代謝リプログラミングの制御を包括した肝発癌予防や治療成績の向上に向けた戦略の構築を目指す。
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