研究課題
炎症性腸疾患(IBD)は再燃・寛解を繰りかえす原因不明の難治性疾患であるが、その発症原因は現在のところ明らかとなっていない。日本における患者数は増加の一途をたどっていることから、根治的治療の開発が望まれている。従って、その原因解明は重要な臨床課題である。欧米では IBD患者の疾患感受性遺伝子として自然免疫に関する遺伝子異常が報告された。しかしながら、欧米で見出された IBD関連遺伝子の多くは日本では認められていない。従って、 遺伝的要因のみならず、後天的な免疫担当細胞における機能異常が IBD発症に関与している可能性が示唆される。現在までの多くの研究は、IBD病態解明において、免疫担当細胞の機能異常に焦点があてられてきた。 一方で、その研究の多くは根本的なIBD病態の解明につながるものではなく、 IBD発症後の結果を解析しているものにすぎない。癌、心疾患、ア レルギー疾患などの多因子疾患は、エピゲノム変化が重要な役割を果たしていると考えられている。このような観点から、IBD発症においてもエピゲノム変化が大きく関して いる可能性が高いと推測される。このことを明らかにするためには、同一患者における自然免疫担当細のエピゲノム変化を正確に捉える必要がある。しかしながら、IBD発症前に これらの細胞の遺伝子解析を行うことは現実的には不可能である。そこで本研究においては、以下の検討を進めていく。(1)日本人IBD患者から iPS 細胞を樹立する。(2)iPS 細胞から自然免疫担当細胞を分化誘導させる。(3)IBD発症後の患者から採取された自然免疫担当細胞とiPS細胞から分化誘導された細胞との間のエピゲノム変化を網羅的に比較検討することである。その結果に基づき、個々のIBD患者のエピゲノム変化を捉えた IBD 先制医療を目指す。
2: おおむね順調に進展している
(1)本研究遂行上、 遺伝子解析ならびにiPS化に必要な腸管上皮細胞数を確保することが不可欠であるため、腸管上皮細胞単離・培養法を検討した上で、腸管上皮細胞からオルガノイドを作製する必要が生じ た。(2)IBD患者において、発症機序が腸管上皮機能障害によるところが大きいと考えられる潰瘍性大腸炎(UC)患者の生検組織を用いてオルガノイド作製を行った。(3)UC患者腸管上皮細胞からのオルガノイド樹立は確立した。(4)腸管オルガノイドからiPS化し、その細胞を腸管上皮に分化させることが、皮膚組織から樹立したiPS細胞より腸管上皮を分化させるよりも、直接的なエピゲノム変化が確認できると考えた。そのため、オルガノイド細胞からのiPS細胞作製に取り組んだ。(5)その結果腸管オルガノイド細胞からのiPS化に成功し、さらにオルガノイド由来のiPS細胞から腸管上皮細胞への分化にも成功した。(6)UC患者のオルガノイドおよびiPS化後に分化した腸管上皮細胞からDNAを抽出して、エピゲノム変化を網羅的に解析した。(7)現在までの結果から、腸管上皮細胞の分化制御に関する転写因子にエピゲノム変化が認められていることが明らかとなった。
(1)本研究期間内にUC患者腸管上皮細胞からのオルガノイド樹立は確立した。今後、さらに多くのUC患者さんからの協力を得て、オルガノイド樹立を行う。(2) クローン病患者腸管上皮細胞からの腸管オルガノイドを樹立させる。(3)患者生検細胞からの腸管オルガノイド→iPS化→腸管細胞への分化という細胞操作を行うことは、より直接的な腸管上皮のエピゲノム変化が確認できると考えられる。従って、引き続きこの研究を推進していく。(4)引き続き、IBD患者の炎症腸管粘膜より内視鏡下に組織生検を行い、その生検組織よりマクロファージや樹状細胞を分離抽出する。同一IBD患者の末梢血をiPS化し、マクロファージや樹状細胞に分化させる。(5)患者iPS細胞由来のマクロファージや樹状細胞並びに腸管上皮細胞を用いたエピゲノム解析を、次世代シーケンサーを用いたゲノム網羅的メチル化解析を行う。(6)IBD患者の腸内細菌叢の解析:各患者の便サンプル から16SrRNA/DNAの塩基配列に基づく腸内細菌の定量的PCR法を行う。(a)門レベルでの 菌種組成 (b)メタゲノムデーターによる属レベルでの菌種組成 (c)メタゲノムデーターによ る遺伝子組成を検討 する。(7)各患者の便サンプルを用いてメタボローム解析を行い、各患者における腸管内の代謝産物を同定する。(8)同定された代謝産物を用いて、iPS細胞由来のマクロファージや樹状細胞や上皮細胞を刺激する。その結果、生じるエピゲノム変化を次世代シーケンサーにて検索する。
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