研究課題/領域番号 |
18H02800
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
武部 貴則 東京医科歯科大学, 統合研究機構, 教授 (20612625)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪性肝炎 / 線維化 / Wolman病 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
本研究では、肝上皮細胞や間葉系細胞に加えて、免疫系細胞を含む多細胞系からなるヒト肝臓オルガノイド技術を活用することにより、脂肪性肝炎の試験管内病態再現系を構築し、炎症・線維化の分子基盤を明らかにすること、また、先天性の脂肪性肝炎を来すWolman病患者iPS細胞を用いてオルガノイドモデルの臨床外挿性を検証することを目的としている。 本年度は、ヒトiPS細胞から多細胞系の肝オルガノイドを創出するための分化誘導法の開発を進めた。すなわち、発生初期における肝臓の運命決定や、肝星細胞やマクロファージなどの単球細胞の分化において重要であるレチノイン酸シグナルに注目した。iPS細胞から胚体内胚葉を経て、後方前腸スフェロイドを誘導した後、マトリゲルに包埋、一過的にレチノイン酸を処理した後、肝細胞分化誘導用培地で培養した。その結果、アルブミン産生能を有する肝オルガノイドが、レチノイン酸依存的に創出されることが明らかとなった。さらに、細胞種マーカーの発現解析やシングルセルトランスクリプトーム解析から、このオルガノイドには、肝細胞に加えて、CD166陽性の肝星細胞様細胞やCD68陽性のクッパー様細胞が含まれることを見出した。 次に、これらの非実質細胞が機能的に脂肪性肝炎病態の再現に寄与するかどうかの検証を目的として、健常人由来iPS細胞から誘導した肝オルガノイドに、遊離脂肪酸であるオレイン酸を暴露し、経時的に組織学的および生化学的解析を行った。その結果、オレイン酸添加後に、肝細胞中への中性脂肪蓄積が生じるとともに、TNFαやIL-6、IL-8などの炎症性サイトカインの発現上昇が惹起され、組織学的に認められる線維化が誘導されることを見出した。現在、これらのオルガノイドの表現型とヒト脂肪性肝炎病態の類似性について、検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において重要となる、免疫系細胞が付与されたヒトiPS細胞由来肝オルガノイドを、レチノイン酸パルス法によって創出することに成功し、さらに、脂肪性肝炎において特徴的な中性脂肪の蓄積・炎症・線維化の表現型を遊離脂肪酸刺激によって誘導することができるに至った。翌年度の計画の予備知見も着実に蓄積しており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、リソソーム酸性リパーゼを欠損するWolman病患者のiPS細胞を用いて、先天性の脂肪性肝炎の病態を肝オルガノイドにおいて再現することを試みるとともに、表現型の重篤度が臨床診断時のリソソーム酸性リパーゼ活性と相関するかどうかを検証する。
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