研究課題
慢性肝障害を施した野生型マウスとOSM受容体KOマウスから回収した骨髄由来マクロファージ(BMDM)とクッパー細胞(KC)を用いて、次世代シークエンサーによるRNA-Seq解析を行なって得られた候補分子について解析を進めた。特にOSM依存的にBMDMで強く発現誘導される液性因子と膜タンパク質を有望な線維化実行候補分子と位置づけた。これらの候補分子には、単に炎症性の遺伝子だけでなく、サイトカインの活性修飾や、凝固・線溶系、コラーゲン分子の修飾や肝星細胞に直接作用しうる因子も含まれていた。そこで、複数の候補分子についてさらに解析を進めた。まず、チオアセタミドを用いたマウス慢性肝障害モデルで誘導した線維肝と障害前の正常肝における発現解析により比較を行ない、線維肝で有意に高値を示した候補分子のうち、まず、5つの分子について、Hydrodynamic Tail Vein injection (HTVi)法によるマウス肝臓での強制発現や、免疫組織化学的染色による線維肝内での発現部位の特定、肝星細胞培養系への添加による活性化評価などを行なった。HTViの結果では、少なくとも1つの液性因子について、肝内発現による線維化促進作用が認められた。また、免疫組織化学的染色を行なった結果、線維化部位に集簇するCD68陽性マクロファージの中に候補分子が発現していることが確認された。さらに、別の因子については、ヒト肝星細胞の細胞株であるLX2株を用いたin vitroアッセイに添加すると、その活性化を増強する作用が認められた。このように、複数の評価法により、肝線維化を誘導しうる新規の液性因子の実態が明らかとなりつつある。また、その他の候補分子についても、肝線維化の治療標的や診断マーカーとしての可能性を引き続き検証している。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は当初計画した通り、線維肝の骨髄由来マクロファージでオンコスタチンM依存的に誘導される遺伝子群について、複数の肝線維化の評価法を用いて解析することができた。その結果、線維化誘導に強く関わると思われる因子を3つ同定することができた。Hydrodynamic Tail Vein injection (HTVi)法による肝臓での遺伝子発現は簡便ではあるが、その発現は中心静脈域に限られるという欠点があった。この点について、より広範囲な情報を得るためにアデノ随伴ウイルス(AAV8)による肝臓での遺伝子発現系を導入し対処することができた。このように、候補遺伝子の解析は順調に進んでおり、当初の目的となる線維化に関連しうる有望な遺伝子も複数見つかっていることから、計画は概ね順調に進展していると判断した。
我々はこれまでにOSMが極めて強い肝線維化作用を示すことを明らかにし、その作用には骨髄由来マクロファージ(BMDM)への作用が必須であることを明らかにしてきた。そのため、本年度はOSM依存的に肝線維化を誘導する因子の同定を目指し、クッパー細胞(KC)では発現せず、野生型マウスのBMDMにおいて高い発現を示し、OSMR KOマウスのBMDMでは発現が低い分子に着目して研究を進めてきた。実際に、このような挙動を示す因子は複数存在し、肝内発現により線維化を誘導できる分子も見つかっていることから、これまでの方針は間違っていないと思われる。そこで、肝線維化モデルとして使用していたチオアセタミド以外のモデル(四塩化炭素頻回投与モデル、胆管炎モデル、非アルコール性脂肪性肝炎モデルなど)についても、線維化における候補分子の評価を行ない、治療標的としての意義を明らかにする。また、HTVi法では中心静脈域での発現誘導に限られるため、AAV8ベクターによる肝臓全体での発現誘導による線維化誘導の評価も取り入れる。特に有望な因子については、そのKOマウスを用いて慢性肝障害モデルを施し、肝線維化への影響を調べる。さらに、候補分子のヒト肝星細胞への直接または間接作用について調べるため、ヒト肝星細胞株に加え、ヒトiPS細胞より誘導した星細胞を用いた共培養系も利用し、活性化に与える影響を評価する。これらの結果を基に、候補分子の肝線維化の治療標的や診断マーカーとしての検証を強化する方針である。
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