研究課題/領域番号 |
18H02802
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 正俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (30627328)
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研究分担者 |
富井 直輝 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00803602)
佐久間 一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50178597)
辻 幸臣 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 講師 (60432217)
本荘 晴朗 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (70262912)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心室細動 / 3次元スクロール / フィラメント / VFストーム / スパイラル |
研究実績の概要 |
心臓興奮波面破綻によって形成された渦巻き型旋回興奮波によって心室細動(VF)が維持されるという概念が提唱されてから約100年経つが、VFに対する本質的な治療法は存在しない。近年、心臓で観察される渦巻き型旋回興奮波は2次元の渦巻き(スパイラル)ではなく、自然界で観察されるハリケーンやトルネードのような3次元の渦巻き現象(3次元スクロール)であることが理論的研究から報告されている。申請者は心房細動を維持する3次元スクロールの描出に生体心で初めて成功しているが、心室細動の駆動源と予想される3次元スクロールの存在は生体心で証明されていない。本研究では、申請者が構築した高分解能光学マッピングシステムを用いて、VFを駆動する3次元渦巻き型旋回興奮波(スクロール)を可視化し、その中心に位置するフィラメントキネティクスを解明し、VFの革新的治療法を開発することを目指す。予備実験の結果、VFストーム家兎では活動電位持続時間が島状に延長する領域が出現し、その辺縁を起点にTdPからVFが発生すること、除細動後の早期VF再発はPurkinje線維からの撃発活動が重要な役割を果たすことが確かめられている。前記の予備実験の結果を踏まえて、多電極カテーテルのみでスクロールフィラメントの存在領域予測を試み、「フィラメントのさまよい運動(投錨)領域遮断がVFを抑制、もしくは心室頻拍からVFへの移行を阻害する」という仮説を検証し、新たな治療法確立のための技術基盤を構築することを最終目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高速ビデオカメラや自作の照明機器(LED照明機器)が故障する等の問題が初年度発生したが、新規に既存のLED照明機器を購入・高速ビデオカメラは修理したことで研究計画の大きな遅延は発生しなかった。研究計画に沿って完全房室ブロックを作成したウサギに植え込み型除細動器を挿入することでVFストーム家兎モデルを作成しており、ストームが頻回発生している状況での緊急光学マッピング実験を実施している。また、上記のVFストーム家兎モデルを継続的に作成し、経過観察中にVFストームを発生したウサギを速やかにその他の評価系(心筋組織染色、遅延Na+電流阻害薬を用いたin vivo実験)に載せ、「VFストームの不整脈基質がどのように形成されるのか?」「不整脈基質をどのように抑制するべきか?」を常に考慮し研究を継続している。心室筋の活動電位持続時間が島状に延長する領域が出現し、その辺縁を起点にTorsades de Pointes様非持続性心室頻拍(TdP)からVFが発生することが既に判明していたが、VFストームの発生源(TdP)に焦点を絞って新たに解析を追加した結果、活動電位持続時間の延長の程度に比例してVFの出現数が有意に増加することが判明した。上記の結果を米国心臓病学会、日本循環器学会にて発表し現在論文作成中(投稿準備)である。さらに、VFの不整脈基質に関する解析結果を中心として、新たな国際学会(米国心臓病学会・日本循環器学会)での発表を今後予定しており研究は予想より進展している。
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今後の研究の推進方策 |
A. VFストーム家兎モデルの作成:昨年度までと同様に、家兎完全房室ブロックの作成は定期的に継続する。Torsades de Pointes様非持続性心室頻拍(TdP)が自然発生し、心室細動(VF)が頻回出現するVFストーム(≧3回VFエピソード/24時間)に進展してから以下の光学マッピング実験を施行する。 B. 光学マッピング実験(対照群として健常家兎を使用する):①膜電位感受性色素にて心筋染色後、心内・外膜光学・電極同時マッピング実験を施行する。独自に開発したPurkinje染色法と解析手法を用いてPurkinje線維からの興奮を重畳表示する。②Ca2+シグナル(Rhod-2染色)と膜電位(Rh237染色)マッピングにて撃発活動とフィラメントの相互作用を評価する実験に関しては、実験済みのデータ解析を今年度中に終了させる予定である。③2次元心筋組織モデルの各ユニットに活動電位数学モデルを組み込んだコンピュータシミュレーションモデルを用いて、渦巻き型旋回興奮波を誘発し、位相分散マップ・位相分散値の時間積分値である累積位相分散マップを作成・描出する。動物実験で得られた島状の活動電位持続時間延長部位を再現するために、心筋局所のIKR電流を島状に抑制し、TdPの再現をはかり、同現象抑制に寄与するパラメータの検討を行う。④新規に、ウサギ冠動脈(回旋枝)を結紮し植え込み型除細動器を挿入することで、VFストーム・心筋梗塞モデルの作成を目指す。既に、心筋梗塞モデル作成の予備実験には成功しているが、本モデル動物に対する植え込み型除細動器の使用は実施していない。完全房室ブロック+植え込み型除細動器(VFストーム家兎モデル)と同様の設定での初期実験を検討している。 C. VFストーム家兎モデルのVF発生源に焦点を絞った論文投稿準備中であるが、状況に応じて追加実験の実施を検討する。
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