研究課題
全エクソン関連解析(ExWAS)で同定された、2つの心房細動感受性1塩基多型(SNPs)の心房細動の病態発現の分子メカニズムの検討を行った。これらは、それぞれSal3とTks5と呼ばれる遺伝子のエクソン上のSNPsである。①Sall3に関する研究方法:神経系の培養細胞株Neur2Aを用いて、in vitroでの検討を行った。Neur2Aで、Sal3をノックダウンすると、自律神経のうち交感神経への分化のマーカーであるTH(チロシンハイドロキシラーゼ)の発現が減少し、野生型Sal3を過剰発現させるとTHの発現が2倍以上に増加すること、心房細動感受性1塩基多型(SNP)を有するSal3を発現させると、THの発現がさらに1.5倍増加することが分かった。以上から、Sal3が自律神経の交感神経への分化を誘導する転写因子であること、心房細動感受性Sal SNPが交感神経への分化をさらに増強することが明らかとなった。②Tks5に関する研究方法:単球の培養細胞株RAW264.7を用いて、in vitroの検討を行った。レンチウイルスを用いて、RAW264.7に野生型Tks5を過剰発現する細胞株、心房細動感受性SNPを過剰発現する細胞株を作成した。野生型Tks5過剰発現で、単球にpodosome形成が促進され、Boyden chamberやスクラッチアッセイなどから、単球の遊走能が増強されること、心房細動感受性SNPの過剰発現により、podosome形成と単球の遊走能がさらに増強されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
概要に記載したように、2つの心房細動感受性遺伝子のSNPsに関して、in vitroの検討がほぼ終了し、心房細動病態発現への関与のメカニズムに関する知見が得られたことから、おおむね順調に進展していると考える。
①Sall3に関する研究方法:前年度の研究で、Sall3が交感神経への分化に関わること、心房細動感受性SNPにより交感神経への分化がさらに促進されることが明らかとなった。そこで、Sall3のKOマウス、心房細動感受性Sall3 SNPのKIマウスを作成した。本年度は、野生型(WT)マウス、KOマウス、KIマウスで交感神経神経節、心臓神経節でTH(チロシンハイドロキシラーゼ)による免疫組織染色を行い、自律神経節における交感神経・副交感神経の分布を検討する。また3マウスグループでテレメトリー心電図を記録し、心拍の日内変動から交感神経・副交感神経の緊張度を比較する。また心房細動リスクを上昇させることが知られている心臓ストレスを加え(圧負荷あるいはアンジオテンシンII持続投与)、心房細動の発生率・電気刺激による誘発率、心房へのマクロファージの遊走、線維化の程度を検討する。②Tks5に関する研究方法:前年度の研究で、Tks5を欠損した単球、心房細動感受性SNPを有する単球を作成し、in vitro実験でTks5がマクロファージのpodosome形成を介してマクロファージの遊走に関わることを明らかにした。本年度は、前年度にCRISPR/Cas9システムを用いて作成したTks5 KOマウス、心房細動感受性Tks5 SNPのKIマウスを用いて、in vivoにおける検討を行う。WTマウス、KOマウス、KIマウスで、心房細動リスクを上昇させることが知られている心臓ストレスを加え(圧負荷あるいはアンジオテンシンII持続投与)、心房細動の発生率・電気刺激による誘発率を生理学的に検討し、免疫組織染色により心房へのマクロファージの遊走、線維化の程度を検討する。
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